『拝啓 愛しい人へ

このごろとても暖かい日は続いています。
私は相変わらず、満月の日に、お団子とあひると共にお酒を少々。
あなたはいかがお過ごしでしょうか?

・・・ああ、あなたも一緒にいましたね。
手紙よりも聞いたほうが早そうです。』


私はとても感情で行動するタイプだ。
だから、好きだというのもなんで?と問われれば答えられない。
あひるの群が好きなのもなんとなくだし、
蓮華が好きなのも、なんとなくだ。
忍びの癖に満月が好きなのも、満月の下で宴会しているのもなんとなくなんだ。

そして、私が初めて人を好きになった時も、
月の下で宴会し終わって、隣で笑っている彼を見たときに、
ふと、ああ、好きだなと思ったのだ。
満月の下、もう帰ろうと歩いている二人で、私は足を止めてしまって、
彼にどうかしたかと聞かれたけれど、
私はなんとなく好きになりましたと言えるほど強くもなかったので、
ああ、うん。なんでもないと言い返すことしかできなかったのだ。

その日から私は彼に片思いをした。
名前を呼ばれれば、名前を呟けば痺れるような恋ではなかった。
ただ、いいなと思った恋だった。自然体な恋だった。
何十年でも思っていられる恋だった。
だから、前と変わらず馬鹿なことを言い合い。
女扱いされないことも、頭をガシガシと撫でられることも
それが、彼が好きだという後輩を撫でるよりも乱暴でも
別段、気にもならなかった。

「おかしいかな?」

「おかしい。それはおかしい」

くのたまで仲がいい葵ちゃんが、ガンと強く机を叩いた。
置いてあった硯が浮いて中の墨汁がこぼれた。
下に置いてあった手紙に染みが出来たが、いかんせんどのみち失敗作
(葵ちゃんに見せてどこが愛の告白!!と怒られた作品)なのでどうでもいい。
私はお茶を啜った。
今日はとても空が青い。雲ひとつない。
私の恋を私以上に頑張っている葵ちゃんには悪いけれど、
彼女の説教は時に自分の自慢話をする平くん以上に周りが見えない。
お茶を置いて私は外へ駆け出した。
外に鳥が舞っていたから、私も鳥のように空を舞った。
なんとなく、私は舞うのが好きだった。
悲しいときも嬉しいときも怒っているときも寂しいときも舞っている。
これは、私の一等であると、あの綺麗物好きの仙蔵くんに言わしめたくらいの出来だが、
私はこれがどうであるかなんて人の評価なんてどうでも良かった。
伝えたいものなんてたった一歩なのだ。
ふわりと浮かぶあの浮遊感の一歩、ずんと、体重以上の重さの一歩、
痛むような一歩、この世の極楽の一歩、すべての一歩、何もない一歩。
それらをただなんとなくで私は一歩のために一歩で舞うのだ。

「相変わらず、綺麗だな」

と、いつの間にか観客に愛しい人。
私も葵ちゃんと平くんと変わりない。
舞っているときは世界など、まったく見えやしない。
真っ黒であり、真っ白であり、銀色であり、青くある。
ふぅと一息吐く。渡された手ぬぐいで汗を拭う。
好きな人がいる世界は以前となにか変わっただろうか。
好きな人に渡された手ぬぐいは彼の匂いがしたけれど、
しょっぱくも甘くもない、同室の伊作くんと同じ薬の匂いが微かにした。
ああ、でも仙蔵くんに言われた言葉よりは彼の言葉のほうが重みはあるのだ。
だって、凄く嬉しい。にぃと自然に笑えれるもの。

縁側でほらよと渡されたお菓子は、
後輩が仙蔵くんと出かけたためにいらなくなったらしくくれてやると笑った。
なんだおまけ?と私も笑った。
二人の間にはお茶が二個分その距離がとても居心地がいい。

二人の間に会話は尽きなくて、そのうちに沈黙があっても、
それが当たり前であるかのような。
チチチと鳥の鳴き声がする。サワサワと木の揺らめきが聞こえる。
そんな優しい沈黙を破ったのは、やけに高い女の声だった。

「もぅー人に見られたらどうするの?」

私たちが見ているので、どうするつもりだろう。
彼らは私と葵ちゃんと平くんにように世界が見えてないらしく、
忍びとしてはどうだろうと、思うほどの鈍さで、目の前でいちゃつき始めた。
それに私と横の彼を投影する。
名前を呼びあう私たち、手を絡めてほほえむ私、嬉しそうに私に口吸いをする彼。
カチリと音が外れた。
あの日からずっと片思いしていた自分が外れた音。

「俺は、おまえとああ言う風になりたくないな」

と、横で呟かれた声に、私は目を見開いた。
普通ならば、片思いをしている相手におまえはそういう対象ではないと言われれば、
泣いてしまうだろう。
しかし、私はカチンとまたはまった。
その通りだ。
その通りと、妙に頭がすっきりする。
私は彼がもし好きになった女の子が、最悪な子だったら、
私は手を広げて、そのまま彼女の顔を叩くだろう。それは思いっきり。
怒られても、私は叩いて、女だからありなんだと叫ぶだろう。
つまり、そういうこと。

「だけどな。俺は、お前が選んだ奴は最低だったら、殴ってやるから、な!」

と、パチンと握りしめたグーの手をもう一つの掌に叩きつける。
偶然に二人の考えは重なった。
ああ、女と男の間に友情はありえないと言うけれど。

「ねぇ、私とあなたは友達、いいや、親友になりえるかな?」

「俺はとっくにそのつもりだ」

彼と私ならばありだろう。と、なんとなく思った。

そして、今、私の恋の片思いは崩れた。
ガラガラに崩れて、とても軽かったからそのままゴミにポーイした。
もう一つあったでっかいものは、大きすぎて後ろにあることに気づかなかった。
目の前にふわふわ浮いてた今ゴミ箱に入っている感情しか見えてなかった。
おもいおもいは両手では捨てきれずに、うーんと唸っていれば
だったら持ってやると彼が一緒に持ってくれた。
そして彼と両思いになった。

「行こうか。留」

私の言葉より早く彼は立ち上がって私に手を出す。
なんとなく・・・いいや、彼の手を取りたくて彼の手を取る。
それはそういう意味じゃないけれど、私にとってはなんと満足な。

「どこにいく?」

「そうだな」

と目的などなく歩き出す。

外は、やっぱり快晴。
私の一歩は、昨日と違った自分の一歩。本当の自分の一歩。
手を離した私と彼の距離は、二個分の湯飲みの距離。
なんて満足な『相思相愛』の友情。













2009・11・8

【リクエスト第一弾・書き終わって気づいた。メールを見返し上級生に!
そうこれは、上級生なのだ。ああやっちまったな。
そしてじっくり『切なさがない爽やかな片思い決別』
・・・・・・・・・・・・すいません。これでいいでしょうか?】