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来世でだいきらい



「ごめん」

彼女はいつでも優しく、可愛く、好ましくあった。
その彼女の前世のあだ名である天女さまは来世も健在で、
大粒の涙と共に、空を灰色にした。
地面に大粒の雨が降る。
今日、私は幼なじみで友人で私を好きだといった稀有な人を失った。





【来世でだいきらい】






私は一人で趣味である穴を掘った。
大きく深く綺麗な丸い穴を掘った。
人間一人そこにいても気づかない穴。
満足がいく出来だ。
はぁと息を吐き汗をぐいっと手で拭う。
この穴に落ちて欲しい人は未だに現れない。

私は平成と呼ばれる世界で高校生になった。
新しい門出、桜舞い散る中で幼なじみである小春は私に、
「好きです。恋人になって」と言った。
小春は、記憶を持っていた。
記憶というのは小さい頃の記憶ではなく、今の自分達の前世の自分。
私は忍びだった。彼女は未来からの来訪者だった。
未来から来たのに、また未来が来世なんて
変な話だと小春はそう笑っていた。私もそう思う。
小春は、記憶を持っていた。
二度もいうのはこの部分が重要だからだ。
私には前世、恋人がいた。
嫌いかと聞かれれば大嫌いで、好きかと聞かれれば大好きの、
素直になれない相手でもあった。
傷つけてばかりいたのに、あの人はしかたがないと私を受入れた。
いや、どちらかというと受け入れさせたが近いかもしれない。
ともかく私には阿呆で馬鹿でちょっぴり可愛い恋人がいたのだ。
ここ大川学園は、元忍術学園の生まれ変わりが多く、
友達だった人、先輩だった人、後輩だった人、先生だった人が
そっくりそのままであった。
記憶がなくても、ここに彼らは存在していたから、
だから私は探したのだ。あの人を。
それから3年経った。
あの人は未だ見つからない。
小春が言った告白は、もう諦めろを含んでいた。
私もそう思う。
あの人は夢であったと。忘れてしまうのが一番だと思う。
私は小春が嫌いではなくて、むしろ好きだったし、
恋人になっても良かった。
3年は長くて、頷ずこうとする私に、
ふわりと、柔らかな髪が見えた。


「彼は、幸せをばら撒いている優しい人です」
「見てください。ここから見ると、いつもと違って見えます。
凄いですね。こんなふうに、世界が見れるなんて!!」
「同じは、あり得ないんですから」
「ねぇ、綾部くん。私のこと嫌い?」
「もういい。もう綾部くんなんか私も、大嫌いだ!!!」

―――――大好き―――――


あの人は、強くあった。弱いから強くありたいのだと、
涙を笑顔で隠す人であった。
甘えるのがめっぽう下手なくせに、本当は誰かに縋りつきたくて
一人手を握っている人であった。
もし、私が小春を選んだら、あの人はまた一人でいるのだろうか。
一人でしないでの一言を言えずに、睨んでいるのだろうか。




ドン。


後ろから急に衝撃を受けたかと思うと、重力を感じ、
地面より下の土に足と手をついた。
とっさに受け身をとったものの、膝からじんと痛みを感じた。
しくった。
今は、実習中だった。
元忍術学園の生徒で構成されている大川学園は
名前はまともであるが、内容は前とほとんど変わっていなくて、
ボディガードからスパイ密偵などなどを育てる特殊な学園だ。
だから、実習はそういう類のもので、
今回私の任務は、どこぞの富豪の娘の家に忍び込んで、
「イルカの涙」を盗むことだったのだけれど、
組んでいた滝夜叉丸もしくったようだ。
自分の仕掛けに自分にかかるとは考え事をしていたとしても、
あまりにお粗末だ。
仙蔵先輩あたりに怒られるなと思って、上を向いた。

ふわりと髪がなびいた。
世界が今、ようやく動き始めて、
本来あるべき美しく素晴らしい青く丸い世界が現れた。

その中心にいるその人は、私をゴミのような目で見て鼻で笑う。

「なんだ。今回の侵入者は簡単だな。プロというかアマだな。
ふん、子供だと思って甘くみられたものだ。
誰に雇われたかしらないが、言っておけ。
まず、お前がこい。このファッキン野郎とな」

その人は下品に中指を立てて、光から闇の方へ消えてしまった。
私は慌てて穴から出ると、その人の前に、
屈強そうなナイフを持った男が襲いかかっていた。
胸元に隠していたスコップを投げようとしたが、
その前にその人は男の股間をこれでもかと蹴った。

「ふん。口程もない」

彼女はふわふわの格好をしていた。
髪にはひらひら、スカートも裾もひらひら。動くたびにふわふわ。
この格好は知っている。
男だけど女顔の自分は似合うだろうと着せられたロリータフッションだ。
自分が着たときには動きにくいと暑苦しいとしか感じなかったが、
今見るとかなり愛らしい格好だ。
彼女はその格好と、ほど遠い顔をしていたが。

「   様!!どこですか」

遠くから聞こえた声に、彼女はその顔をやめて、無表情になった。

「あいつらは一体誰を探しているのだろうね。
私かな?金かな?家かな?・・・まぁ、どっちでもいいか」

一瞬見せた泣きそうな顔。
ああ。やっぱり自分は間違っていなかったようだ。
彼女は一人だ。
にっと口元が上がる。

「ねぇ」
「・・・なんだ?」
「一緒に落ちてみない?」
「はぁ?」
「穴から見える景色はきっとあなたが見ている世界と違くみえるよ」

彼女は、私が差し出した手と私を見比べた。
それから、にっと笑って。

「・・・ふ、おもしろい。そこからの景色、なにが見えるか。
教えてもらおうじゃないか」


結論。
は、ちゃんとこの世界にいた。
ただし、記憶は忘れていて、命を狙わられるほどの大富豪の娘になっていた。
そして私はというと、のボディガードになった。

「・・・なんであなたがここにいるの?」

横にいる男を睨むと、男も鋭い目で私を睨む。

「それはこちらのセリフだ。今回は絶対負けないからな」

こいつは、山田利吉。
昔も今も同じで山田先生の息子にして
今は、凄腕の何でも屋だった。
そういえば数年前から専属のボディガードになった噂で聞いていたが、
まさか先にの側にいるとは。
前世でに恋をして最後まで諦めたなかったしつこい男だったが、
ここまでしつこいと敵ながら賞賛したくなる。

「何言ってるんだ。ロリコン」

が呆れて利吉を見た。

。その名前やめてくれと何度もいっているだろう」
「だってお前、齢5歳の私に出会ってしょっぱなで
プロポーズしただろう?運命だとか言って。
まさか誘拐しに来た相手にそう言われるなんて思わなかった」
「あれは、青春の過ちで」
「プロポーズしたことが?」
「そのまま誘拐しなかったことが」

和気あいあいとしている。
は、利吉に心を少し許しているのだろう。
親しみを含めたからかいをしている。
やっぱりさっきの賞賛は取り消しで、消そう。
と、胸元に隠したスコップを利吉に投げた。
利吉はむかつくことに全部避けた。

「大丈夫。。この変態は私がどうにかする。
でも、私とならまだ3歳差だから大丈夫」

は、私よりも年下になっていた。
今年から大川学園に入学したから中学1年らしい。
ほんとうに、小春にOKしなくてよかったと思いながら、
の小さい手を握り締めると、は困惑した顔をしている。

「なにが大丈夫なの?え?私喜八郎とあって
まだ1週間しか経ってないと思うんだけど」
「1週間もあれば十分」
「甘いな綾部くん。私は数秒で告白したから」
「私もした」

利吉と対抗する私に、は??をつけて頭をかしげる。
とても可愛いしぐさだ。
思うに、は、可愛さが爆発していると思う。
昔の私はなんであんなに素直じゃなかったのかわけがわからない。
こんな可愛い生物を放置している方が恐ろしい。
どうやら同じ事を考えて、鼻の下が伸びている利吉と目があいまた睨み合う。

「え、したっけ?あれ、なんかそれと逆のことを言われたような気はするんだけど」
「・・・知らないの?私のきらいは、だいすきなんだよ?」

は、ぽかんとした顔をして
それから、こぼれ落ちるようなふにゃりと崩れた顔をした。

彼女は昔も今も変わらずに、とても嫌いで嫌いで大嫌いで、
どうしようもなく

だいすき。










2011・7・28

(主人公を記憶ありにして綾部を記憶なしにしたら、
どシリアスで1話じゃ終わらないし、なんと利吉さんが出張ってしまったので、
逆にしてみました。
そしてら、ロリコンを言わせたくなったので小さくしてみました。
主人公高校生になり、綾部大学生を想像してドキドキしたのは
私だけじゃないはず)


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