【IFありえないけど】
顔を上げた。
誰もいないその空間に誰かがいた。
自分は誰も信用できなくてそのくせ誰かに助けてもらいたい弱い人間だった。
今でも思う。最悪の人間だ。
今でも変わっていないかもしれない。
でも気付いた。それだけで成長したと思う。楽天的思考。
大いに結構。
私の最悪とも言えるとき。
愛した人には裏切られ、地位と金を取られた。
自分がちっぽけであると自覚。
何もなかった。
違う。
本当は何も持っていなかった。何も掴んではいなかった。
不安。絶望。虚無感。
そのとき人は笑うのか、笑ってそして顔から表情が消えた。
そのとき一人の絵師とであった。
彼女は、騒然と必然とそこにいた。
何も映し出さない表情、なまじ顔が言い分冷たく映る
前の自分であれば気味が悪いと思うだろう人物。
今思えばよく商売できたなそれで、と思う態度だった。
ああ、そのときは今の自分におあつらえ向きだったんだ。
本能で感じていた。彼女は否定するそして肯定する。
矛盾しかもっていなかった自分を受け入れてくれる人物だった。
縋った。醜悪だっただろう。
近づいてみれば見るほど彼女は美しかった。
笑うのでもなし同情するわけでもなく。ただ聞いていた。
そして
「それでお前はどうする?」
どうする?未来なんて少しも考えていなかった。ただ悔しくて憎くて怖くて寂しくて
長い時間が経った。本当は数分だったのかもしれない。
でも、長かった。せみの冬眠みたいな長さだ。
彼女はその場所を去った。
何もいえなかった。ただ手を伸ばした。掴めない。
それでも手を握りしめていた。
掌に感じる自分の皮以外の感触。
これは、紙?
開いて見えたのは。
彼女に出会って変わった。
私は泣けるようになった。綺麗なだけじゃない人生だけど
不幸だけじゃない幸せもあった。
そして今また、彼女と出会っている。
忘れられていてもよかった。自己満足。大いに結構?
ありがとう。
ああ、彼女は笑えるようになったんだ。
初めて自分以外の誰かの幸せを嬉しく思った。