静蘭
少しだけ高い声、淡々と済んだ声が私の耳に届いた。
思い浮かべていた人物は、奥様に似ているければまったく違う
何も映し出していない表情は美しい人形のようだった。
何年前から感じていた、居心地の悪さを私はまた経験した。
彼女は、自分の知っている子供とはかけ離れていた。
秀麗お嬢様とは違ったやりずらさ。
お嬢様。
繰り返し思い出をめくってみても、彼女と喋った記憶は少ない。
奥様がいたときは、秀麗お嬢様の世話ばかりしていた記憶がある。
彼女がそのとき何をしていたかなんて・・・・・・誰も知らない。
だからだろうか、彼女は大人びてしまったのは。
静蘭
私は、彼女にどう思われていたのだろうか?
家族だと秀麗お嬢様は笑う。
では、お嬢様は・・・・・・
「静蘭、考え中すまないが、ねぎはいらない」
はっと手元を見れば、彼女の容器にねぎがこんもりとのっていた。
すいませんと謝りながらねぎの量を普通の一般的な量へと減らす。
そのとき確かに無表情ではあった、だがなぜだか嫌がっているように思えた。
そして容器を箸でつついている、いや正確にはねぎを。
・・・・・・もしかして。
彼女と目があった。
数秒の間。
彼女はねぎを口にした。
今まで、大人びてとか、人形のようにとか思っていた。
それをすべて吹き飛ばす出来事だった。
顔には出てない、が行動に出てる。雰囲気で出ている。
なんだあの負のオーラ。
顔からは汗が出ている。
・・・・・・・・・絶対、ねぎキライだ。この人。
ごくり、のどを鳴らす音がした。
飲み込んだ後彼女は平静を取り戻してかのようで、
ねぎを避けて豆腐を口する。
ああ、豆腐は好きなんだ。
キラキラしているし(無表情だが)。
その様子がおかしくて、つい笑ってしまった。
彼女は、笑われた理由は分かっているらしく、
豆腐を自分でとってもくもくと食べ続けている。
その顔がまた無表情なのに全部思っていることが出てて、
なお笑えた。
自分の悩みなんて馬鹿らしく思った。
彼女は、実は分かりやすくて、以外に子供で、
「お嬢様」
「繊維が長くてのどに引っかかるんだ、食べにくいだけでキライとかそういうわけでは」
「では、小さくして食べますか?」
「・・・・・・のってりしてるのが嫌なんだ」
「生で」
「苦いだろ。・・・静蘭だってこう苦手なものがあるはずだろう」
「私は好き嫌いをしませんので」
黙ってお嬢様は自分を見つめた。
「嘘付け。お前は キライだろ」
「どこでそんな」
「見ていれば分かる。あれをお前は避けてた」
その言葉のやり取りで、自分が思っていたよりも見られていることを感じた。
てっきり無関心だと思っていたのに。
「馬鹿にするな。静蘭。私は誰かまわずではない」
やられた。
にやりと笑われた感じがする。
この人は、私が不安がっていることを知ってて。
わざわざこの場を設けたんだ。
じゃなければ、私しか居ないこと時に来るわけがない。
その日。彼女に認められた日。
そして彼女が不器用だと気付いた日。
彼女が傍にいて居心地が悪くなることはなくなった。
むしろ
いいえ。その言葉を口にしてしまえば私はもう戻られない気がした。
今日も貴方は、いきなりのっそり来て食事を食べていくんでしょう。
そのときは、ねぎを用意しときます。
何年もその言葉をずっと待っていたんですよ。これぐらい許されるでしょう?