真っ黒に染まったしまった私を
真っ赤に染まってしまった私を
貴方はまだ愛しているといってくれるだろうか。
に覆いかぶさった男たちは服をまさぐり始めた。
「なんだ?これ」
そういっての懐から出た仮面を投げた。
仮面は無残にも粉々に割れた。
はずきずきと痛む感覚に頭がぼうっとなっていた。
左腕が、かたい無機質なものにあたった。
あまり動かない頭で、は最後の力を振り絞って、仮面の欠片を握り男のノドに突き刺した。
一人の男が隙を見せたところで隠し持っていた簪で同じ場所を刺した。
しかし、最後の一人に顔を殴られ、男は剣を抜いた。
「やはりお前はさっさと殺すべきだった」
剣がおちる。にはそれが遅い速さに見えたが、もう逃れられないのを悟った。
「ごめんなさい、、鳳珠。私は、汚してしまった」
簪は力なく手から落ちた。
赤い血のなかで白い仮面の欠片たちが怪しく光っていた。
目をつぶって最後を迎える。痛みに耐えるため見るに耐えない光景から逃避するため。
だが、いくらまっても最後が訪れない。
「」
懐かしい声がした。もう二度と聞こえないはずの声が。
「な、なんで」
目を開けば、
「我が魂の伴侶の危機を知らないわけがないだろう」
旅に出てここにいるはずのない人物が愛用の笛をもってその場所に存在した。
その傍には自分の最後を迎えさせるはずだった人物が動かないで横たわっている。
は呆然とその光景を見た。見ることしかできなかった。
「 、 」
「どうかしたのか」
龍蓮の耳にの言葉は聞こえなかった。
いつまでたってもその場所に座って立ち上がらないを、心配して
龍蓮は近づいた。に触れるか触れないかのところでは言った。
「龍蓮 私は・・・汚くないか?」
白い服は血で赤く染まり乱れ、黒い長い髪はぐちゃぐちゃになっている。
龍蓮はが姿かたちを言っているのではないことに気付いた。
龍蓮はしゃがみ、手を血だまりの中に突っ込み顔に塗り始めた。
「何を、何をしているんだ!」
は、急いで龍蓮の手を掴み顔を覗きこんだ。
龍蓮はじっとの目をみて手を握った。
「汚れるなら一緒に汚れよう。だが、 勘違いするな。は何よりも美しい」
龍蓮はに自分の服を羽織らせ、落ちている簪を綺麗に拭くと
にっこり笑ってに渡した。
「あ」
「行こう」
は渡された簪を受け取ろうとした。
しかし怪我をした手がゆうことをきかない。
治りかけていた左手もただかたかたと振るえている。
龍蓮は、簪を優しく握らせそのままを抱えた。
「ありがとう。龍蓮」
龍蓮は何も言わずただ抱きしめる力を強くさせた。
静かな暗闇の中、龍蓮は静かに移動していた。
腕の中では、が小さな寝息を立てながら眠りについている。
前よりもやせて軽く小さくなった体。
また無茶なことをしていたのだと容易に分かる。
男がに刀を向けていたとき、体の芯から冷たくなる思いがした。
今この手に温かなぬくもりがあることに安堵した。
それにしても。
龍蓮はの姿を見た。
血だらけになってしまった服が乱れて胸元に赤い斑点が数箇所ついている。
頬は殴られたのだろう赤くはれている。
何があったなんて明白で龍蓮は、唇をかみ締めた。
もっと早くに来るんだった。後悔しても足りないくらいだ。
「あんなことはもう二度と言わせない」
そういいながら龍蓮は、赤い印の上に唇を落とした。
2008.1.8