は各地点々と旅して回った。

料理人に才能を見込まれ、弟子入りしたがその才能のため殺されかけたり
親切な顔をした店屋のおかみさんに売られそうになったことも、
黄仙からの教えで怪我や病を治し感謝されるときも、
その技が悪鬼のものだと言われる事もあった。
疑われたり殺されかけたりしたときのほうが多かったが
は頭を使っていつも逃げてきた。



数少ないいい出会いのなかで印象深いのは、彫刻家とのものだった。

彼はに彫らせた作品を見ていった。


「美しい、だが真っ白で何もない。」

「・・・・そうか。」

「だがこの真っ白さに惹きつけられる。。お前は才能がある。
燃えることもなく淡く誰にも染められず一点の汚れもない純白の色を出せる。
それは生きているものには出せない色だ。」

「私は死人と一緒か。」

「死人にも出せまい。お前は、稀有な存在だ。
私の人生のなかで、お前のようなものに会うことはもうあるまい。
。私のもとで学ばないか。いや、私に教えてくれまいか?」

「・・・私は教えられない。生まれたときから私はこうであった。
それに、私は貴方の色のほうが美しいと思う。」

それはめったに美しいと感じないの正直な感想だった。


「そうか。ありがとう。。」
彼は涙ながらに言った。
彼は自分の力に限界を感じ彫刻をやめようか悩んでいた。
その言葉が彼を勇気付けた。


それから彼の作品は世間から、素晴らしいと評価され
一般ではまず手に入れることが出来ないものとなった。







そして、ある人物とは出会う。 
売れない絵描き。
いつも人からだまされてばかりいる青年。
それでも笑顔を絶やさない人。

は不思議そうな顔をして聞いた。
「なぜお前はいつも笑っているんだ?」

「だって今日も生きていられるし、天気もいい。絶好の絵を描く日だよ!」

「雨の日でも笑ってる。」

「雨は雨でまた風景がかわって見えてその日もまた絶好の絵描き日和!」

は思った。
こいつといれば自分は何か変わるかもしれないと。
それは直感であった。
そしてはその男と一緒に旅を始めた。


「今の奴はお前をだましているぞ。」

「そうかい。良かった。本当に病気じゃなくて。」

「金を取られたが。」

「いいのいいの。お金より大事なものってあるでしょ?」

「今日の飯はどうする?」

「う〜ん。今日は自然に厄介になろう。いいね。自然食体にもいいし無料だし、いくらでも食べれる。」

「・・・・絵は売れたか?」

「今日も閑古鳥だよ。も治療してたんでしょ?無料で。
ってたぶん一人で生きていけない人だよね。」

「今日の診察料は山菜をもらった。」

「本当に!よくやった。作って作って〜。僕の菜大好物〜」

「なにがいい。」

「なんでも!大好き〜。もう最高!愛してる。」

「そうか。」

「そう。今日はあそこで食べようよ。湖がキラキラして綺麗なんだよ〜」

「分かった。」

鼻歌まじりに進んで行きご機嫌な絵描きをいまだはよく分からなかった。


騙されたにもかかわらず良かったと笑ったり
どこで食べても一緒なのにわざわざ移動したり
食べ物だけでも一喜一憂する絵描きをは眩しそうに眺めた。


「う〜ん、ご馳走様。今日もおいしかったよ。」

「そうか。」

「〜そうかじゃなくて、おいしかったてば!」

「?何を求めている?」

「ここは嬉しいとかじゃ次も頑張るとかなんかないの?」

「・・・・次も同じ味だし、なんで嬉しがる?」

「・・ときどきって天然だよね。まぁいい絵描こう絵!」




は言えなかった。
自分が感情がないことを言わなくていいと思ったのかもしれないが
言ってはいけない気がした。


も絵描かない?ほら、筆に紙!それじゃ始め。」
拒否権はないんだな。
そう思いながらは素直に筆を走らした。

やはりその絵は美しいけれど何もない絵だった。

?出来た?」
覗き込んできた絵描きにとっさにはその紙をぐしゃぐしゃにして遠くへ投げた。

「・・・下手だ。見せられるものじゃない。」
そういっては立ち上がり歩き始めた。

その後ろで絵描きはに気づかれないようにその絵を拾った。


そんなこんなで二人は月日を共に歩んだ。
はそんな日々の中に少しずつだが感情の欠片を見つけられるようになった。
まだ喜怒哀楽の感情を示すことは一度もないけれど
徐々に何かを掴みかけていた。










2007・3・16