彼は、何がしたかったのだろうか。
自分の手には握り飯がにぎられている。
私は姉さまの妹で、そして駒である。
それ以外になにもない。
彼が、知るはずのない情報を、
知っていたならば何も言わないはず去っていくはずがない。
変な形の握り飯を口に含む。
初めてなのに懐かしい味が口の中に広がった。
私に味覚と言うものが現れたのは、実を言えば鳳珠邸に来てからだ。
その前は、食べれるか食べれないかで判断していたような気がする。
だから、きっとこの味はその前に食べたものなのだろう。
彼がなんのつもりで渡したのかは分からない。
無言で渡されたそれを、
なぜ疑いもなく自分は食べているのも分からない。
思考能力の低下かもしれない。
人の欲求とは、単純なものだ。
いくら修行したとしても、変わらない。
食べれば、眠くなる。
目を覚ませば日が差し込んでいた。
ひんやりとする部屋からまだ朝が早いことが分かる。
よく、その間に人が来なかったものだ。
そして、
山は消えていた。
妖精っているんだな。とは、嘘でも思わない。
というかそんな妖精がいるならばなんのために手助けしているのか理由を問い詰めたい。
それと正々堂々と姿を現せ。なんでわざわざ隠れる。
美徳か?隠れてやるのが、見つかっちゃうと消えちゃうとやらか。
など考えながら、椅子に座ると酷く懐かしい香の匂いがした。
「・・・・・・ありがとうございます。父様」
段々とやつれていく二人にとうとう珀明 が動いた。
彼は、人が良いと言うかなんと言うか。
でも、
悪くない。
「それならば、私は彼の手伝いをしましょう」
「な」
「いけませんか?」
「・・・・・・紅 官史がいいというならば」
珀明のときと違い魯官吏は静かに言葉を紡いだ。
多くの人の視線をすべて無視し、珀明の横につく。
彼は、呆れと驚きと戸惑いの表情を一遍に浮かべていた。
器用だな。
「・・・・・・本当ならお前も一緒に休むはずの人間なんだぞ」
そう一言だけいって、二人に愚痴を飛ばす。
姉さまと姉さまの友人の視線を感じたが、すぐに珀明のほうへと向いた。
部屋に着くと、姉さまとその友人から
「ありがとう」
と聞こえた。
珀明は照れくさそうに私は、きっと何にもなかったかのように。
もくもくと、二人で作業をする。
いつもする分を珀明が見たとき、なぜか叱られた。
なんでもっとはやく教えなかったとか、こんな量いったいどこに隠してやがった
とか。最後のほうは呆れられていた。
姉妹そろってか。とならなんやら。紅家の血か。とかなんやら。
その後現状確認。
いつもする分+姉さま+姉さまの友達ああ、珀明曰く小動物。+珀明=机の上に乗っからない
横でフフフと笑いながら、
終わらせてやる。終わらせることが、絳攸様に近づく一歩だぁ!!
といって烈火のごとく彼は書簡に向かっていった。
私はというと、眠ったこともあり、しかも安全な食事もついているこの状態は喜ばしいものだった。
昼すぎには、やっと机に乗るようになった。
「さすがだな」
「物事はそんな複雑に出来ているわけじゃない」
「それでもここまでは誰もがいけない」
「単に諦めが悪いんだ」
昔から、中途半端に終わらすのは、好きじゃなかった。
粉々に割れてしまった破片を集めて元通りにすることを何度も繰り返して
誰かも理解されなくてよかった。
一瞬の褒め言葉のために一生懸命になる子供となんら代わりがないことを
大人の理由をつけて私は何度もしてきた。
時々嫌になる
それでも前を勧めた。それは褒めるものがいなかったから。
褒めてもらえば、
ほら、
こんなにも私は脆い。
どこをどう間違えたのか。
気を抜いていたのか。それならば私はここに来て気を抜きすぎだ。
ここは、仙人の管轄内。
少し動きにくいのは分かってる。
けど、ここまで自分が弱くなるとは思っていもいなかった。
それだけじゃないんだろう。
きっと。
人の思いがどろどろに溶け合って絡み合って
私は、ただの一人の人間だから。
前を突っ切るだけ強くないから。
何も考えないで体が動くことは生きている中で少ないほうだと思う。
ほとんどないといってしまってもいいくらいだ。
今
何も考えずに体が動いていた。
すべきことも、自分のみを守ることも、全部忘れて、
ただ
求めた。
この世で一番大切で、この世で一番愛しい人からの、この世で一番悲しくて壊したくて
でも。
タン。
足が床を蹴った。柱を飛び越えて、
浮遊感。
落ちている。
手の中には、簪それと一枚の羽根
ふんわりと髪が空に舞った。
嫌になるぐらいの快晴。喜ばしい天気。
そう。
私一人死んだ所で何も変わらない。
誰かが泣いてくれても
誰かが笑ってくれても
世界は動いていて、まるで最初からいなかったみたいに時を刻む。
男たちの声が遠くに。
目を閉じた。
暗い暗い闇の中へ、
だめだよ。。
死んじゃぁ。
君は、まだこっちきちゃだめ。
生きて、生きて、生きて
うるさいくらいの音が重なる大合唱。
私は
まだ 生きなくちゃいけない
君は
誰かの声が、重なった。
そのとき、全てのものが動きを止めて、音を消した。
目をかっぴらいて、大切なものを握りしめる。
それから腰に巻きついた帯を取り、木々の枝にひっかっけた。
ビリビリと聞こえる音。
体が木々に叩き疲れられ、落下はまだ続いている
だが速さは弱まった
これで頭から落ちる最悪はなくなった
後は、足か、手か
横になった体を正面にしようとしたが、
「っあ」
これは、命を絶とうと少しでも考えた天罰なのかもしれない。
利き手からボキという小気味いい音を聞いた。
2007.11.20