彼女はただそこに存在していた。


暗闇の中。ろうそくにともった炎だけが、周りを照らし

彼女の顔は黒で覆いつくされていた。





彼女の第一印象は、愛しい人の妹。

第二印象は、歴代最高ともと言われる才能。



ちらりと見た。その顔は、秀麗とは違い。
母親にであろう均整の取れた体、少々あどけなさが残るものの整った顔立ち。
余の目には美しい仮面をつけたお人形にしかみえなかった。

そういえば推薦者は、黄 奇人だった。
妙な繋がりに疑問を持った。
けど、そのとき余の頭の中は秀麗で頭一杯になっていた。

秀麗の持っているものが、赤だとするならば、彼女は紅。
深すぎて触れることが恐ろしいと感じた。




彼女が、来てから話はたえない。
・・・・・・話というか伝説と言うか。
まだ数日しか経っていないと言うのに、どの部もこぞって彼女を巡って牽制をし合っている。

もはや女性は一人しかいないといった熱狂振り。

・・・・・・面白くない。秀麗はあんなにも頑張ってるのに。
あんなにも国をよくしようと考えている人はいないのに。

だから。


彼女を調べることにした。
秀麗のことだけじゃないぞ。これもちゃんと王としての役目だ!!



朝、彼女は最初確かに倉庫の整理をしていた。
秀麗の姿が近くにあったので見ていたら、いつのまにかいなくなった。

むぅ、彼女は足が速い。


きょろきょろとさがすと、なぜか拍手と喝采の声が聞こえた。
何だと思い行ってみると


「素敵☆無敵にカンペキ。サイコーっす姉御ぉ」

「あまり喋らないその寡黙、表情を変えないそんなところもカッコいい」 

「まさに理想のO・TO・ KOのなかの漢!!」

「姉御ぉ、これどうですか?」

「なんだよ。俺が次だぞ」

「うっせえ早い者勝ちなんだよ!!」

「ここはこうしたら綺麗な円を描ける。こちらはもう少しここを切ってもいいと思う。
そろそろ時間だな。また明日」



『アザース!!姉御ぉぉぉぉぉおおおお』



・・・・・・一瞬宮廷ということを忘れさせる映像だった。
濃い。なんだあれは。

そして
彼女は足が速い。おかしい、絶対おかしい。
身長差はかなりある。余の足が短いなんてことは・・・・・・ない。つまり彼女が恐ろしく早い。
余が遅いわけない。これでも、逃げることはピカイチだと自負している。

そういえば、書類に放浪していたと。


秀麗や兄上や邵可を置いて、あの劣悪ともいえる時代に置き去りに
彼女は、家族を捨てて



ホシクテシカタナカッタモノヲカノジョハステタ

アンナニモアタタカイモノヲキヅツケタ



何かが全身を駆け巡った。口から目から鼻から耳から足から手から血から

巡った


食堂で、歓声が聞こえる

止めてくれ。やめてくれ

彼女を褒めないで、彼女、は  余の

大切な人を




ハッと気がついたときは、もう太陽が空高く上がっていた
お腹がすいた。


そういえば今日は秀麗に会ってない
秀麗のお饅頭が食べたい。

ほかほかのふわふわを

ふと

また早足で、歩いている彼女をみた。


心配してるんじゃない。これは素朴な疑問


けどその疑問よりも、今日の役目を思い出した。
そう、秀麗から離ればなれになるはめになった
しなければいけないこと。




彼女はもう仕事をしていた。
もくもくとただ集中していた。


一人の青年が入っていく。

「まだ終わっていないのか。のろまめ。彩華とは口ほどにもないな」
 
また一人

「ハハハ。ごめんね。いつかしなくなくなるからさ。今のうちってことで」

また

「僕じゃないですよ。その、上の人が。あの、・・・そのごめんなさい」


「俺ら平凡と違って彩華様様だったらこなされるだろう?頑張ってください、ね?」


「気持ち悪い。なんだお前。」

積み上げられた書類が、床へ落ちていく


そいつの行動は意味があったのだろうか。


誰も何もその行動さえ
人の歓声も嫌味も雑言も  も
 
完全に遮断している

顔に何をなんの感情をうつすことのない
少ない言葉しか話さない

生きてるかどうか分からない

まさに人形みたいな

彼女が。

なぜだろう薄ら寒い。彼女はただもくもくと筆を動かす。

その動き から彼女が有能である。
いや、天才の部類の人間だと言うことが分かる。
だけど。



彼女は完璧だった。完璧ゆえ欠如していた。大事であっていなくてはならないものが。



闇が彼女の部屋を包んでいく。
真っ黒に本当は真っ白に

塗りつぶされる感覚。


まだ彼女の机の上には、書類が置かれている。
三山。

・・・・・・仕事をしないある尚書を思い出した。


ぐぅ〜

・・・・・・自然の原理だ。仕方ない。
ふふふ。おにぎり。歪だがちゃんと愛が詰まった一級品。


口に入れた。

塩の酸味が、食べるということを促す。
人としての生きるうえの行動

・・・・・・彼女は、素朴な疑問

昼も抱いたその疑問


あまりにも人形にうつってしまったけど、彼女はそれでも人。
・・・・・・いくら誰がなにを言っても大切な人たちの。 

化け物じゃない。

人形じゃない。


何も口にしないその意味はきっと誰よりも分かっていた。

それからかぎなれた匂い。


彼女は立ち上がり窓を開けた。

新鮮な空気が流れる。
匂いはかき消された。

また彼女はもくもくと机にすがりつくと思っていた。

停止。

何も動かず停止した。

それは壊れてしまった人形のように。


闇に呑まれていく。白が黒に食われていく。
徐々に。


本当は、出て行くつもりはなかった。
じゃあなんで出て行った?


秀麗が悲しむから。



彼女には、温かな家族がいた。余が欲しくてしょうがなかったものを放棄した。
暖かな手を振りほどいた。

余とはまったく違う。

だからこれは、大切な人たちが傷つくのを防ぐため。

そうだ。

なのに、彼女が余をうつした。何もうつさないと思っていた彼女が余を。



その後理解する。

彼女は、愛をただ求めている子供だった。
それなのに何も持っていない自分を恥じて愛を頑なに信じようとしない子供だった。







2007・11・1