ガシャァーン

「この化け物め。」

・・・・・・私のことかそれは?





二日目に入って、一日目まったく妨害すらない自分の力を嘆いていた所。
上から水がふってきた。

まったくもって幼稚なそれ。
だが、人は簡単であればあるほど気が抜いたときには気付かないのだ。
言い訳がましい。気を抜いていたというところが正論だろう。
敵意をもたれているのは十分承知だったのだが、こうあっけなさに気を抜いてしまったのも事実。

もっと暗殺とか考えていたんだが、どうやら最初の一日目は様子見といったところだったようだ。

が、最初の最初が・・・・・・曰く。
小学生レベルなそれ。「へへーん。ひっかかった。ひっかかった」と聞こえる幻聴。

ああ。なんで私は水浸しなんだろう。



歩くたびに水がポタポタと髪から落ちる。
煩わしい。髪を丸坊主にしようか。

本気でそう考えていると。


「穢らわしい匂いがすると思えば、人を惑わせてその手に彩華をとった物の怪ではないか。」

ほぉ。つまり私は、幻術が使えると。使ってみたいものだな。ぜひとも。


「小気味いい姿じゃ。お前にはその姿がよく似合っているぞ。」

・・・・・・褒められているのか?


「なんか言わんのか。この化け物が。」


先ほどから化け物やら物の怪やら、私は人外ということか・・・・・・まぁそれはどうでもいいことだな。
自分が人がどうかなんて分からんしな。実は、化け物かもしれないし、この世のものではないかもしれない。
けど、同じ形をして、同じ言語を話しているなら問題ないだろう。
植物だって動物だって還れば皆同じだ。

は、目の前に現れた貴族風な男たちから目を逸らし、まるでそこに誰もいなかったように
何もなかったかのように歩き出した。
男たちは歩きだしたの前へ立ちはだかると、


「〜〜〜っそなたは人の語源すら分からん低脳な生き物のらしいの。」


だったらなんなんだろう。私が低脳だろうが、物の怪だろうが化け物だろうが
こいつになにか不自由なことがあるのだろうか。


「もう行きましょうぞ。我らもかような物の怪を相手している暇はない。」

だったら呼びとめるな。こいつらは一体何がしたかったんだ?


「そうじゃな。まったくもって可愛げのひとつないものよ。姉のほうがまだいい顔しておったというのに。」

・・・・・・私は私。たとえ血がつながろうとそれは変わらない。
なんでひとくくりに考えるんだろう。


「本当に不気味じゃ。こやつの傍にいるものの気が知れぬな。」

・・・・・・ねぇ。
            それって誰のこと?


まったく人を映していなかったの瞳が、男たちを捕らえた。
何も喋ることなく、何かするわけでもないのに男たちは、息もするのを忘れてただ立ち付くしかなく、
彼女が何か喋ろうと口を開くその言葉に恐怖するしかなかった。

その恐怖は、第三者によって崩された。


「おまえら、一体何をしている!」







今日も今日とて、あてなき道を歩いている青年がひとり。
いつものように印を目印に歩いていたはずなのに、きっと誰かが変えたとした思えない。
そういえば、昨日から進士の卵たちが仕事をしていた。

その中で、顔見知りは何人かいる。
自分を師匠としてみてくれる可愛い弟子。
その横で小動物のような印象をうける少年。

そして。

「         。                      。」


なんだ?声がするほうへ青年は、足を進めた。
別に自分が迷子から解放されたいわけではないが、そう気になったのだ。
そして行った場所には、
そこには先ほどまで考えていた少女が絡まれている姿だった。


「おまえら、一体何をしている。」


この一声で、本当に助かったのはどっちだったのか。
青年は、少女の姿に唖然としているうちに男たちは消えていた。
逃げ足は十分いい。


青年、絳攸は彼女の傍まで来ると事の経緯を尋ねた。

「なぜ濡れてるんだ?」

「私の不注意です。」

淡々と言い張る彼女に、何も変わっていない彼女に、安心した。
そして彼女をこんな姿にさせた人物にいささか怒りを感じたが、
彼女がなんでもないというならそれですますことにした。

聞きたいことはたくさんあった。それと会えたことも嬉しかった。
だからだろうか。

関わらないと決めた自分が。


「書類の整理とゴミが、吏部にある。それと私の部屋の整理を頼む。」


こんな言葉を口にしてしまった。









すたすたと青年が歩く後ろで、


「・・・・・・また迷子か?」

彼女がそう呟いたのも無理はなかった。
ここは、吏部とは逆の方向で、しかも彼がこのまま歩くと後宮にたどり着くだろう。
彼女は彼がここまですごい才能を持っているとは心底驚いていた。

そして、いつも彼はどうやって吏部までいっているのか?
今度暇があれば彼の一日を観察しようと心の底で思った。








2007・9・23