静まり返る中、礼部官の読み上げる声だけが響いた。
上治二年、新進士任命式。
「第一位――状元、杜影月」
「ーーはい」
「第二位ーー榜眼、藍・・・龍蓮」
返事はない。少し間が空いてから。
「第三位――探花、紅秀麗」
「はい」
「以上、第一甲第三名、唱名いたしました。 ・・・そして、特別及第者ーー彩華、紅 」
「はい」
周りがどよめいた。
呼ばれた当の本人は何の表情を浮かべることなくそこにいた。
そして人々は呼ばれた少女を見てまた驚くのだ。
薔薇姫似の顔。何が起きても動じないその姿勢。何よりも鮮烈に惹きこまれる紅いその瞳。
礼部官は段々と静かになっていく会場を見渡しそれから言葉を続けた。
「つづいてに、第二甲及第者として。
男はほそくえんだ。仮面の下で扇の下で。
呼ばれたはずなのに現れなかった少年も人に見られることのない場所で。
そして白い髭をはやし、嬉々として彼女を見ている老人も。
それは当然の結果。彼女は鬼才なのだから。
彩華
国試の州試・会試・殿試すべての試験を満点と認められたものだけに与えられる称号。
先王時代に作られたが、誰一人として受かったものがいないとされる幻の称号。
女性官吏が導入され初めての年。
そして幻とされた称号をとったのは、若干 十六歳の少女だった。
「進士式トンズラしやがったあの男。」
秀麗は、麺棒にありったけの力を入れて叩いた。そのため音が部屋中にに響いている。
今日の食卓は餃子だ。
かなりこしがあっておいしいだろう。いくらその作っている姿が恐ろしくても。
そっからツラツラと龍蓮に関する愚痴を喋っていると。
もう一人の天才を思いだした。
食卓でもその名前は現れた。
龍蓮の名前があがった後に。
「それにしても、殿が、彩華だとはおどろいたけどね。」
「楸瑛お前。知ってたのか?」
絳攸は、と呼ばれた少女を見たとき度肝を抜かれた。
何せ紅家だということも知らないし本当の名前も知らなかった彼女が
次あったときは、すべてをあかしいきなり官史しかも、幻とされる称号を呼ばれていたのだから。
自分には明かさなかったとしたら、それは。
「弟がらみで知ったんだよ。絳攸 。睨まないでくれるかい?」
楸瑛は、絳攸のすべての意を汲み苦笑した。
自分だって、驚いているのだ。賢いと思っていたがまさかここまで賢い人物だったとは。
しかも、弟の思い人。
一気に流れ込む情報におぼれそうなのは自分とて同じなのだ。
「絳攸様も藍将軍も知ってるんですか?お嬢様のこと。」
静蘭はじっと二人を見た。
彼女が彩華をとったことよりも、二人と知り合っていることに疑問を抱いたのだ。
楸瑛は、直に笑顔をつけ答えた。
「ちょっと顔見知りぐらいだよ。ねぇ絳攸。」
「・・・ああ。」
「あとでそこらへんを詳しく知りたいな。二人とも、いいかな?」
に関して一番恐ろしいのは静蘭でも黎深でも龍蓮でもない。
この人だろうと。親馬鹿ぎみの邵可に二人は苦笑するしか術がなかった。
このとき良かったのは、秀麗やが受かったことで機嫌がよく、深く突っ込まれなかったことだろう。
賑やかな食事を終え、一人部屋にいた秀麗は窓から差し込む月の光をみて
同じ名前が付く少女を思い浮かべた。
「は・・・・・・やっぱり私とは違うのね。」
それは風とともにけされてしまうような呟きだった。
その頃噂されていた本人は、鳳珠邸の食卓にいた。
目の前にはいつもと違っていくつもの皿が並べられている。
「・・・・・・今日はまた豪勢な。ん。料理人の腕また上がったな。」
「任命式があったのだ。祝い事だ。これくらいは当然だろう。それよりも」
鳳珠はに向ける柔らな視線から射殺さんばかりの視線をの横に視線を移した。
「。口についてるぞ。」
の席の横に座った頭に羽をつけた青年がの口元を拭っている。
「・・・・・・なぜお前がここにいる。藍 龍蓮。」
鳳珠は殺気こもった低い声でその青年の名を呼んだ。
「我が魂の伴侶とは切っても切れぬ運命だ。
それに無事及第も出来たことを喜び合うことに何か問題があるのか?」
呼ばれた本人は、それをものともさず至極同然とばかりに答えた。
ますます殺気が強くなった。
「大いにある。どうやってここに入った。お前は進士式すっぽかしながら喜び合うとはどういうことだ。
そしてなにより近づきすぎだ。離れろ。」
から龍蓮を離すと、龍蓮は眉を動かし。
「無粋な仮面だ。なかなかいい趣味をしているが中身がつりあってなければ意味がない。」
「この羽お前の頭に突き刺してやろう。そのほうがまともになるだろう。」
二人に火花が散った。
「鳳珠。」
それまで黙っていたが箸をおき口を開いた。
「なんだ。」
「龍蓮曰く。外に出るとき危ないらしいので護衛してくれるそうなんだ。
なので、食事をしよう。」
「・・・・・・分かった。」
その言葉の端はしに、無理やり押し進められた雰囲気と少しの疲労感が漂っていたので、
鳳珠はそれ以上問い詰められなかった。
その後。黎深がやってきて二次災害となった。
やっと開放されたは一人部屋にいた。
疲れたから休みたいというまで三人は話を止めなかっただろう。
部屋には月の光が差し込んでいた。
はそれをつかんだ。
見えているのにつかめないそれを掴んだり離したりしていくうちに
疲れが溜まっていたのかそのまま深い眠りについた。
ようやく約束が果たせそうだ。
2007・8・10