。私の魂の伴侶になってくれ。」


時が止まったかのように、その場の誰もが動かなかった。
ピシリもし空気に音を付けられるならばその音が部屋中に響いただろう。
だんだんと空気が凍ったように三人は後ろから冷気を感じた。
寒いのになぜだか汗が止まらない三人は後ろを見たら死ぬとばかりに、肩をすくめ
ただか龍蓮の言葉を待つしかなかった。
大穴で、邵可か?と思っていると、思いかけない人物によってその場は収まった。




「龍蓮!!何勝手にうろついていると思えば。すまないな。秀麗。弟が迷惑を。」


「いいえ。帳消しですよ。」

ナイスタイミングに現れた。楸瑛に秀麗は涙浮かべながら歓喜した。
楸瑛の手を両手で握って笑顔で離さないほどに。
楸瑛は、また自分の弟が何かやらかしたのは分かっていたが、
後ろで黒い笑顔を浮かべ酒を握る邵可が自分の肩をつかむ所までは予測していなかった。



後にあれほど体に悪い酒はないというほど楸瑛に恐怖に震えながらに親友・絳攸に語った。




龍蓮は興がそがれた。とばかりに庭へ行った。
はその姿をただじっと見ながらいつしかいなくなっていた。
龍蓮が王と出会った後。


草木が風に吹かれていた。
静かに。誰もいない感覚を覚えていると。
うっすら闇夜の中で人の形を成していく。
それが、自分の待ち望んでいた人で、龍蓮は笛を懐にしまい影に近づいていった。


「帰る。皆に伝えといてくれ。」


そういってまた人の姿から影になっていく彼女を龍蓮は


「待て。送っていこう。」


有無を言わさず彼女の手を強く握り彼女もそれを分かっていたかのように受け入れた。
暗い夜道で二人の男女がそろって歩いた。
両方とも何もない表情で。
ただ二人の足音だけが誰もいない道路に響いた。
それを破ったのはだった。急に足を止めたかと思うと龍蓮のほうに顔を向け
じっと目を見つめ呼んだ。


「龍蓮。」


低くもなく高くもない聞きやすい声が龍蓮の隣から響いた。
いつも通り何の感情ものっていない淡々としてそれでいて美しい声が。
龍蓮は、のほうへ顔を向け目を合わせた。
聞きたいことは分かっている。


「・・・・・・冗談ではない。真面目だ。けどそれを受け入れないと知っている。」


「なぜだ。」


「それでも愛してるんだ。」


少々間が空いた。
は、その言葉に僅かながらも顔を動かしたが直に戻ると。


「変わったな。龍蓮。お前は無駄なことはしないと思っていた。」


「無駄ではないからしている。変わったというならそれはが変えた。」


「私は変われないんだ。」


「変わりたくないんだろう?」


「・・・そうだ。」


「我が運命の宿敵は、に感情を与えた。だがそれはきっかけだ。」


「・・・・・・。」


は龍蓮から少し目を逸らした。
やはり彼女は出逢った時よりも感情が出るようになっていた。


、困惑しているのは分かっている。そうさせたんだからな。」


「私をどうしたいんだ。」


やや不満げにそれでも目を覗き込んだにその感情を与えた人物に少し嫉妬を覚えながらも
自分しか映っていない瞳に満足した龍蓮は言葉を続けた。


「愛してくれとまではいかない。ただを愛しているという事実から目を逸らされたくない。」


「全てを捨てれないだろう龍蓮。」


が全てを捨てさせなくするだろう。だが、とともにいられるのならばそれも一興だ。」


はその言葉の重さを感じ取っていた。
そしてこれが、簡単にそらせてしまえる感情ではないことが確定した。


「私は分からないんだ。捨て去ってしまえればよかった。」


にとって龍蓮の存在は薄くはなかった。
それを知っているかそ龍蓮はその行動に出たのだが。


「そこまで思われているということは望みがないわけではないということだな。」


分かっているのとその言葉を本人から聞くのでは大分差がある。
龍蓮は内心喜んでいたが、ある一点だけ聞きたい点があった。


「龍蓮。一ついっておく。」


をまとう雰囲気が少し変わった。
彼女は本当に賢い聞きたいと思っていることを聞くより先に言ってくれるのだから。


「言わせたくないがそれは言われなければならないことだろう。」


彼女は優しいから、真実を言ってくれる。
いくら聞きたくない言葉でも、龍蓮にはそれが必要だから。


「覚えておいてくれ。私はを愛している。」


は龍蓮が言ったように、龍蓮がを愛していることを否定しなかった。
だからこその言葉に嬉しさと、少しの悲しさ
そしてそこまでを惚れされた相手への嫉妬が全て入り混じった感情を押し殺し
への感謝の言葉を口にした。


「そうかありがとう。。私の気持ちから目を逸らさないでいてくれて。」


「・・・・・・無理やりだろう。龍蓮は会ったときからこうときめたら一直線じゃないか。」


もだろう。ふむ。こうも一緒なにやら運命めいたものを感じないか?
やはりは我が魂の伴侶。魂の片割れ!」


「・・・・・・そこまでいってしまうと叔父上並みの妄想力だぞ。」


「叔父上?そうか会えたのか。」


「まぁ会ってしまわなければならない相手を運命だというなら、叔父上だろうな確実に。」


「む。駄目だ。私がの魂の伴侶だ。
我が運命の宿敵にも、叔父上にも黄 奇人というなかなか風情ある人物にも負けん!」


龍蓮は心中で思った。
あの時冷静になるため離れたがやはり一緒にいるほうが良かったんではないだろうか。
敵だとまだ確定したわけではないが、どうしてか嫌な気が満々とする。
・・・・・・まだ滞在しているしがここにいるならばここにいてもいいし。
なんにせよその二人は要注意だと。
はその気がないくせに一杯人を惹きつける。
愚兄その四すら惹かれかけているのに。
負けるつもりは更々ないがな。
そして隣にいるに抱きついた。
まずはその二人に宣戦布告しとくのも手かなと思いながらも。



龍蓮と離れは黄 鳳珠邸の自室にいた。
なんとなしに一人になりたかったのでそこにいるのだが、
実際、黎深と出会って色々言い合うには疲れすぎていた。
顔にはまったくでいないが、体は正直だ。布団から離れることが出来ない。



今日は、色々なことがあった。ありずぎた。
父様や姉上静蘭、自分の家へ帰り食事までした。
昔より家がぼろぼろだった。先王の爪あとが痛ましく残っていた。
そして、龍蓮。
きっとそれが一番の疲れだろう。もしやこれが噂の驚きというものかもしれない。
だったら驚きという感情をこうも分かりやすく与えてくれたのは龍蓮だろう。


龍蓮は、人生まだ半分も生きていない。
色々な出来事。色々な人物。に出逢うだろう。
そのとき龍蓮が新しい道を、正しい道を見つけれるまで
ままごとのようなそれでいて真っ直ぐな思いを受け止めよう。
私はやはり変われない。
本当に愛した人を愛していると言えないまま終わってしまった私には。
私にとって愛している人物は変わることなくあの人で。
きっとずっと愛していたい人だから。

それでも、久しぶりに言われた愛しているの言葉は嬉しいと感じてしまった。
それは、言われなれていないせいだと思っておきたい。









2007・8・3