初めて心の友が出来た。
それはとても望んだもので、けど何か足りないと感じていた。
その答えは出ている。
試験が開始されて、会えるだろうと思っていた人物には会えななかった。
くまなく探したけれど見つからなくて、
自分の予想通りに動かない人だって分かっていたけれど。
探しているのに見つからない。
彼女が自分を避けているとしか思えない。
遠い未来すら見通せるといわれているのにたった一人の人物の行動はまったく分からない。
もしかしたらここにはいないのかもしれない。
そうだとしても。
会えない。
そう思ったとき
ぽっかりと空いた虚無感を埋める術など見つからなくて。
いつも朝起きれば朝日を見つめていたから。
笛を吹いた。
いる可能性が高い寮で、彼女を待ちわびた。
笛の音は朝の神聖な空気に混じって美しく響き
朝日の光が木々をほのかに照らしていた。
と一緒にいれなくななり一人で旅した。
最初から一人で旅していたのだから
一年になるかどうかのときなんて
忘れられる。
そう思っていた。
彼女は手に入らないから、彼女は愛した人がいるから。
そう冷静になって考えてみたけれど答えが出ないまま貴陽に来てしまった。
彼女がいるであろう貴陽に。
彼女のことを忘れることもできないままで。
会えば分かると思ったこの気持ちが。
試験会場を後にして。
心の友その一その二との会話も。
愚兄その四との会話も。
遠くのほうでじっと見つめているものがいた。
何かを耐えるような縋り付くようなそれは。
まぎれもなく自分だった。
愚兄その四に連れられ心の友その一その二と引き離され。
趣味のよろしくない家へと連行される。
龍蓮という名のために。
心の友その一の快い気遣いだけがせめてもの救いだった。
行きたくない場所へと愚兄その四に連れられていこうとするとき。
ちらりと彼女の姿が見えた。
錯覚だと頭で思うよりも体が先に動いていた。
何も考えずに名前を呼んで走って走って。
周りが見えなくなった。
彼女じゃないかもしれない。
でも叫んでいる。
きっと彼女だと。
膨れ上がる不安と期待を混ぜ込んで。
ふいにその影が止まった。
それから私のほうへ顔を向けると。
「龍蓮。」
彼女がそう呼んで初めて、全てが吹きとんだ。
彼女だけが世界の中でもっとも色鮮やかで
世界を旅して回ったけれど自然の美すら凌駕しているほど美しかった。
そして悟ったのだ。
やはり私はを愛していると。
たとえ彼女が古びた簪を付け続けていても。
変わることがない思いだと。
後ろから誰かの声がした。
けど目の前にいる人物しか見えない。
「会いたかった。」
それから私はを抱きしめた。
身長差ですっぽりと私の腕の中に納まった。
昔より少し肉がついてそれでもやせている彼女に。
温かな体温と柔らかな感触と甘い香りと墨の匂いがした。