あの日。
幼かった自分。
体がうまく動かなくて父様は仕事に出掛けて、
はどこかへ消えるようにしていなくなっていたから
どこかで誰かと遊んでいるそう思っていた。
外に焦がれていた。
けど、母様と静蘭がいつも傍にいてくれたから平気だった。
二瑚を習って皆で遊んで、
ねぇ
せいらぁ、どうしてわたしはうまくひけにゃいの?
私のほうが始めたのは早かった。
読書も父様に教えてもらって、
ねぇ
とうしゃま、どうしてわたしはよむりょがおそいにょ?
私より幼いあの子は難しそうな本を読んでいた。
裁縫やら家事のことも教わって
ねぇ
かあしゃま、どうしてわたしらけらの?
知ってるよ。彼女は私よりも完璧だったから。
母様が死んで、
父様が静蘭が笑わなくなった。
頑張らなくちゃ。そう思って無理でも笑った。
ねぇ。
静蘭、父様。
はどこにいるの?
皆が笑うようになって、どうにか落ち着いて
それに比例するようにあの子は私たちと喋らなくなった。
一生懸命仕事して
あの子は一人どこかへ出掛けていて、食事さえも一緒に取ることがなくなった。
父様は何も言わず少し悲しそうにの席を見ていた。
貴方は自由すぎるわ。
母様が死んで一度も涙すら見せなくて辛そうな顔すら見たことなかった。
隠しているならなんとなく分かるの。
けどあの子は違かった。
現実を否定しているんじゃないの。無理して表情に出さないわけでもないの。
あの子は現実を受け入れその上で泣かないんだわ。
それが分かったとき。
私はあの子が許せなかった。
問い詰めて聞き出したかった。
母様が死んだのは、
「自然だ。摂理に逆らう術などこの世にない。どうして悲しまなくてはいけない。」
「間違っている。貴方は間違っているわ。。」
「誰もが一緒ではない。」
「っ私は 『ピ〜ヒョロピヒョ〜ピピロロロピピピロ』」
今日も笛の音とは言いがたい音楽で目が覚めた。
久しぶりに見た夢。
緊張しているからだろうか。それとも・・・・・・苛立っているからだろうか。
今日で試験が終わる。
早く終わって欲しい。
彼と過ごす時間は拷問だ。
『ピヒョロロロロロピロ。』
「まったく。龍蓮!!近所迷惑よ早く止めなさい!!」
何度言ったか分からないセリフを今日も叫んだ。
あの子がいなくたって十年。
子供だった。今ならそう言える。
は何も悪いことなどしてない。私とはまったく違うものだって分かっているのに。
「我が心の友その一!!見てくれ素晴らしい朝日だと思わないか?」
「ああも〜朝日は分かったから!さっさと部屋に入る。
大体なんでいつもこの時間帯に吹くのよ。」
やっと朝日が昇ってきた時間帯だ。
ここ数日間彼は毎日誰か特定の人物に恨みでもあるかのように
決まった時間に吹いている。
この人物に友人がいるとは思えないが。
誰か探しているのだろうか。
だったら早く出てきて彼を引き取って欲しい。
彼は本当に何しに来たのか。
ただ寝て食って時々騒音を撒き散らす。
秀麗は彼とであって何度目になるか分からないため息を吐いた。
「どうした我が心の友その一。誰かが心の友その一に負担をかけたのか?
だったら私が心の友その一の心の枷を解き放って見せよう。
なにお礼はいらない。さぁ。誰か言うのだ。」
「現代進行形で私の心に枷をかけてるのなんて一人しかいないわよ。
そうね毎日毎日騒音を撒き散らし私の眠りを妨害する孔雀頭よ!」
「そのような奴がここにいたとは。私としたことが失念していた。」
「あんたのことよ。あ・ん・たの。」
彼に嫌味が通じないことなど分かりきっているがどうしても言いたくなる。
そして案の定彼は言いように解釈したらしい。
「私の素晴らしい演奏が心の友その一に眠れなくなるほど酔いしれさしてしまうとは。
我ながら恐ろしい。」
「恐ろしいのはあんたのその考えよ。もう疲れた。」
秀麗は、龍蓮の笛を止めることはは成功したので部屋に戻ろうとした。
「心の友その一。今日もみずみずしい菜の料理を所望する。」
その後ろを付いてくる遠慮のない男に何度殴ってやろうと思ったか。
私はお前の料理人か!とのセリフつきで。
しかしそれはいつも寸前で終わってる。
彼に悪気がないのだ。
それさえあれば遠慮なしに殴れたのに。
「あれ?秀麗さんに龍蓮さん。早いですね〜。」
部屋に戻ると影月が二人を向かいいれた。
「影月くん。よくあの騒音の中眠れたわね。」
あの騒音中眠れるのは失神している人だけだと思った。
とまじまじと影月を眺めると影月は手を振って否定した。
「え。嫌だな。秀麗さん。あの中で寝れるわけないじゃないですか。」
「じゃどうしているの?」
「吹く時間が朝同じなんでそれより前に起きているんですよ。」
「苦労しているわね。」
「お互い様です。」
二人ともため息を吐きながらお互いを慰めあっている。
第三者から見ればかなり変な光景に見えただろう。
「誰か聞かせたい人でもいるんでしょうか?」
影月は同じ時間に吹いていることに疑問を持った。
「私もそう思ったんだけど・・・・・・あの龍蓮よ?」
「・・・・・・失礼ですよ。秀麗さん。彼に友達一人や二人。」
その可能性が低いことは分かっている。
彼は自分たちを心の友その一その二と呼ぶのだから。
ならば、なんのために同じ時刻に吹くのか?
「心の友その一とその二。早くしないと菜がなくなってしまうぞ。」
ちょうど良いタイミングで龍蓮は二人に話しかけた。
秀麗はだめもとで龍蓮に問うた。
「龍蓮。朝、笛誰かに聞かせているの?」
「さすが心の友その一。以心伝心とはこのことだな。いるかどうかは分からないが、可能性は高い。」
「いるかどうかも分からない人に毎日吹いてるって!?」
誰かのために吹いていたことも驚いたが
それがいるかどうかも分からない人物に吹いている事実にも驚いた。
龍蓮の言ったことに目を丸くしていると。
「え〜と。恋人か何かですか?」
「影月くん!!いくらなんでも失礼よ。どう考えたっているわけないじゃない。
もしいたらその人仙人より器が広くて
海よりも深く山よりも高い孤高の心を持ち合わせているに違いないわ。」
秀麗は龍蓮に恋人ということに頭が拒否するかのように
訳の分からないことを語りながら混乱している。
「し、秀麗さん。少し落ち着いて。」
「恋人ではない。我が同士だ。だが・・・・・・会えたら確かめたいことがあるんだ。」
「?龍蓮さん?」
影月はそれ以上聞けなかった。
秀麗を落ち着かせなければいけないこともあったが、
彼が少しだけ暗い影を落としているかのように見えたから。
試験は無事。
いや精神に異常をきたした人がちらほら見える中で終了した。
そして現在。
顔はそっくりだけど中身が似ていない。兄弟のやり取り中だ。
そのやり取りの中龍蓮に少し同情することもあったが、
龍蓮はいつもどうりの顔で楸瑛で連れられていった。
考えることはあったが家に帰ろうとして背をむけ影月とともに歩いたとき。
「あれ?龍蓮さんが珍しいな。走ってる。」
遠くで声が響いた。
悲しくて苦しくてそれでも忘れることも出来なかった懐かしい名前。
2007・7・6