変わらないものだと思っていた。
誰かを愛すことなんて出来ないとたかをくくってた。

自分に似すぎていたあいつは。



いつから自分と違くなってしまったのだろう。




あの時あの手を取っていたなら今傍で笑っているのは自分だったろうか。








絳攸が吏部尚書の扉を開けるとそこは別世界だった。




部下からまったく働かない吏部尚書の話を聞いた。
いつも通りじゃないか。
逆に仕事をやっている方が恐ろしい。
・・・・・そう考えてしまったことに泣きたくなった。


いつものごとく自分が仕事をすればいいだけなのだが、
それに秀麗がいたときに働いてくれたおかげでそんなに量もない。
仕事を譲ってもらうべく尚書室を開けた。



そして今に至る。



ここはどこだ?
そして貴方は誰だ?


吏部尚書室は一面白い紙だらけで、
そこの主は・・・・・ずっと白い紙に向かって紙と同じくらい白い顔をさせて。


「!!黎深様!!大丈夫ですか?」


「別にこう凝ったものでなくてもどうせ捨てるだろうしいやもしかしたらもってるかも?」


「黎深様!!」


「変な文章で鼻で笑われるのも癪だ。そうだ。私が書くんだそれ相応なものでなければ。」


「・・・・・黎深様?」


ぶつぶつと喋りながら紙に向かう自分の養い親に恐る恐る近づくと。


「!!なんだ絳攸か。入ってくるときは扉を叩いてから入れ。」


・・・・叩きました。声もかけました。けど、違う世界にいらしてたじゃないですか。
どこかで同じことが起きたような気がしたがそれよりもこの状況の説明が欲しかった。


「・・・・この紙は何なんですか?」


一文字しか書いてないのが結構あるんですが。
しかも全部上等な紙で。
もったいない。


「手紙だ。」


ああ。なるほど。
それならば黎深様がこんなになるのもうなずける。
黄尚書に便乗して饅頭でも食べたんだろう。


「考えるのはいいですけどちゃんと寝てください。黎深様顔が真っ白ですよ。」


「うるさい。コレも全部あいつが悪いんだ。」


「あいつ?秀麗がですか?」


「違う。・・・・絳攸お前が書け。」


「は?」


書けと言われても何を書けばいいか分からない上に誰に書くかも知らないで?
大体あの黎深様がこんなに考えて書く手紙の相手は誰だ?
秀麗と邵可様以外に誰かいるのか?


「ただの許可書だ。そこにお前がいることを許す。と書けばいいんだ。
私は疲れた寝る。終わったら起こせ。」


そう言い切ると黎深様は近くにある長椅子に腰掛眠り始めた。
・・・・・腹のそこから理不尽さを感じたが、口には出さず絳攸はまず散らかった紙をまとめ
それから書くことにした。
拾われたときからこの人について行こうと決めた。
しかし
紙を拾いながら知らず知らずにため息が出た。
今日も残業か。









「あなたはどなたですか?」


これは夢だ。
小さい少女が私の目の前に立っている。
彼女と私の初めての出会い。


「私と一緒に来い。」


誰がお前にやるか。間違っても変態仮面の血筋なんぞいらんわ。


「わからない。さみしいってなに?」


本当に似てたんだ。
けど彼女は自分以上に歪んでいた。


「叔父上」


関係なんて知らなければ。


「わたしといっしょ?」


傍にいられたのに。


「礼を言おうと思いまして。」


変わったな。本当に言おうとした言葉飲み込んで。
久しぶりに会った彼女は綺麗になっていた。


「私はあの人を愛してる。」


彼女の目から涙が溢れた。
涙は水のように流れるだけで彼女はそれが分からないかのように
ただ静かに涙した。



触れたい。




自然と彼女に触れると


「     」


違う。違う。
私は、


「黎深。頼みがある。」


兄上。
私は彼女に触れてはならない。

昔も今も。


あの時あの手を取っていたら何か変わっていただろうか?
自問自答しても帰ってくる答えは決まっているのに。

昔も今も変わらない。
いや、変えてはならない。


変わったのは距離の長さだけ。


けど、他の誰かに取られるくらいなら・・・・・



「黎深様。書けました。」


・・・・絳攸。
そういえばこいつもに固執している部分があったな。


「・・・・・・・・。」


絳攸が書いた文章はとても丁寧で自分が書くよりは彼女を傷つけることはないだろう。






「駄目だ。やはり私が書く。」


なんだか他の誰かじゃ駄目な気がした。嫌な気がした。
手紙だ。

どうせ捨てるだろうし。


それに










「・・・・。クソ馬鹿から手紙だ。」


「鳳珠。なんかやつれてないか?」


「気にしなくて良い。」


「そうか。」

が黎深からの手紙を受け取った。
彼女はまじまじと手紙を読んで・・・・・・気になる。

「なんて書かれていた。」


「・・・・あの人らしい。」

そういいは私に手紙を渡した。


『許す。
秀麗が蜜柑を食べきれないそうだからお前にもやる。喜べ。   黎深』


「すぐさま捨ててしまえ。」


こんな理不尽な手紙渡すためだけにあんなに絡まれたかと思うと無償に腹が立ったが
それ以上にが、それを大事そうに懐に入れていたのが気に食わなかった。





その後
蜜柑は嫌がらせかと思うほどの量が来たので一週間皆総出で蜜柑づくしの料理だった。









2007・6・22