同じ5文字からなる言葉がこんなにも意味を変えさせるなんて。
思いもしなかった。
望んだ言葉と望まない言葉。
愛の言葉と別れの言葉。
話は養い子と姪っこの話だけしてさっさと帰るだろうと思っていた。
のことが気になって早く帰ってもらいたかった。
あの子はこの騒ぎの中動かないわけがないから。
まだ完全に直ってない体でまた倒れている彼女を見つけるのは御免だった。
だからさっさと終わらせたかった。
というのにこの男は。
泊まる勢いでここに居座っている。
しかも私の邸だというのに自分のもののようにくつろいだ態度で。
・・・・・何度傍にある花瓶を投げようと思ったか知れない。
しかし投げたら心配してが来る可能性がないとはいえないため鳳珠は耐えた。
が。
もう我慢の限界だ。
鳳珠の米神がピクピクと動いている。
その動きは哀愁を背負いまた一段と美しくなっていたが鳳珠は知るよしもない。
何度目かになる帰れを言おうと口を開いた。
答えが秀麗を狼の中から助けれるのは私しか居ないだろうとか。
私だって館に秀麗を呼びたいのに・・・・・変態仮面が。とか。
秀麗に手を出したら世界を敵にまわしたと思えとか。
最後には脅しがくるあたりに奴の性格が現れている。
言うたび言うたび似たような展開に導き出した答えは、言っても無駄の6文字。
鳳珠は口を閉じ目の前の傍若無人を睨もうとすると、
「なぜだ。」
楽しそうに姪っ子の話をしていたと思うと急に顔を険しくさせ扇を広げていた。
何だというのだ。逆にこっちがなぜだ。だ。
こいつの思考回路はまったくついていけない。
それが天の才のせいか変態のせいか分からないが。
黎深よりも顔をゆがませた鳳珠は、イライラしながら聞き返した。
「なにがだ?」
黎深はその姿を一瞥し扇をパチンとしまうと。
「・・・・・この家に一人違う毛並みが住み着いている。」
「・・・・・・・・・・」
「あれは、家に着くことを許さない。どうやって懐かせた?」
「名前も言えない奴に教える必要が?」
鳳珠は、顔には出さないが内情は荒れに荒れまくっていた。
同じ姪だというのにこの差はなんだ。
興味がないほうがまだましだ。
なぜこんな扱いを受けているのか知らない。
けどを知っている鳳珠は怒りしか沸かなかった。
そしてが前言った言葉を思い出し、拳を握り締めた。
「鳳珠。いまならば間に合う。あれを捨てろ。」
「・・・・・理由すらないのにか?」
「あれは下らないものだ。」
ガシャァァァァン
鳳珠は、立ち上がり黎深の胸ぐらを掴んでいた。
横には落ちた花瓶の破片が散らばっている。
鳳珠は、平静としている整った顔を殴りたかった。
この後のことなんかまったく考えずただ本能のままに拳を下ろした。
「鳳珠。落ち着け。」
「・・・・・・・。」
その拳は言われていた本人によって止められた。
少し高く落ち着いた声が鳳珠の炎をなだめ強く握られた手を開いた。
自由になった黎深は、身なりを整えおなじみの扇を広げ冷たい眼差しをに向けた。
「なぜお前はここにいる?」
は、黎深の方を振り返るとその瞳に映し出した。
「私は自分の居るべき場所を正しいと思った方向にしか動きません。」
「お前がいることでどうなるか分かっているだろう。」
「ええ。だからこそだっだんですが、時は変わりました。」
黎深は、その答えを聞くとから視線を外した。
顔はいまだ険しいままだが幾分ほっとしたようにも見えた。
しかし、それに気づくものは誰もこの場に居なかった。
鳳珠は、扉を開け出て行こうとするに違和感を感じた。
そのまま行かせてはいけないような気がして、
「・・・・・・・・?」
は、ゆっくりと鳳珠の方を振り返ると短い言葉を紡いだ。
「ありがとう。さようなら。」
いつか、その日が来るかもしれないと何回も思った。
その日は笑顔で送ろうと決めていたのに。
望んだ別れじゃないから?
唐突だったから?
いいや。違う。たぶん私は。
「鳳珠。手を離してくれ。」
「この男の言うことなんぞ聞かなくてもいい。」
心が嫌だと叫んでいる。
「鳳珠。私はまだ紅家なんだ。」
「・・・だったら名を捨てろ。」
まだ一緒にいたい。この気持ちは。
「何を言っている鳳珠。貴様本気か!!」
黎深が、狼狽した怒りを込めた表情で私を睨んでいる。
そうか。お前も。
「。私の元へ来い。」
誰かの元へ行かせたくない。
誰かのものにさせたくない。
私のもとにいて欲しい。
家族愛ではない尊敬の念でもない友情のそれでもないこれはただ愛しいと欲しいと叫んでいる。
きっと今じゃなくても笑顔で送ることなんて無理だっただろう。
周りを覆っていた霧が晴れるように、やっと世界が明細に見え始めた。
私はを愛していた。
2007・6・7