美しい黒髪がサラサラと風に流れている。
かすかに感じる体温と重み。

なんだか、泣きたくなった。


彼女に初め持った感情は、尊敬だった。
話しているうちにそれは友情になった。
一緒に暮らせば家族のような愛情。

今抱いてる気持ちは・・・・・。




初めて彼女の感情を見た時から何かが変わり始めていた。

見間違いと言われるとそうかもしれない。
けど、彼女が笑った。
そして二度目の笑顔は。

あの時と違って泣きそうで儚く淡い笑顔だった。
そう泣きそうな笑顔で・・・・・・・・・・・・・あの言葉を。




「鳳珠。手止まってますよ?」




景侍郎に言われて初めて鳳珠は手が止まっていることに気づいた。
景侍郎はくんも秀くんもいないですしね。と考えていたおかげで
鳳珠の様子がいつもと違うことに気づかない。


「・・・・休憩だ。」


できればこの火照った空気を入れ替えたい。
仕事も手が付かないほど、鳳珠の頭はで一杯だった。

その後その休憩が家に帰らせることとなる。
小猿が二匹柚梨の腰に付いていた鍵を奪っていった。

追いかけると、秀麗と燕青が家の近くにその小猿の片割れが倒れていた。


「――私の家のほうが早い。」


少しだけほっとしたのは、
あの言葉を言われた日以来会ってない彼女との話題が出来たことだろう。

会いずらいのはきっと。
このもやもやと霧のような感情がなにかはっきりしないから。




ギシ。

暗い部屋の中きしむ音が一つした。


「・・・・・誰か。来たな。」


は、床に出ると上に衣を被った。
顔色もやや良くなり食欲も戻った。
睡眠も・・・半ば無理やり師匠から手渡されて薬で眠らされている。

自分を診た医者が師匠なのにも驚いたが。
師匠曰く『あの顔を普通に診れるやつはあまりいないからな。』らしい。


鳳珠。

彼はとても優しい。
かなりの迷惑を今回かけたと思うのに。

自分でも雨の中一晩中いるとはまさか思わなくて。
だから。
どうしてこんなことを。ではなく

もうしないでくれ。と言われてことが私を軽くさせ、
またここに長く滞在している大きな理由だろう。

彼は、私に無断で入り込むようなまねはしない。

ただじっと話すのを待つそんな人だから。


そんな優しさに浸かっていることが。
自分だけがここで生きていることが。


息ができなくなる。





嗚呼


「どうやら敵と・・・・この感覚は。そうか。勢ぞろいだ。」


は衣を上にかけ仮面を取り、
短刀を握り締めた。


久しぶりですね。久しぶりに貴方の・・・父様の気配だ。



「父様がいても変な所から侵入してくる奴はいるってとこかな。」


扉をあけ久しぶりの空気をかぎはその場から消えた。









「邵可様。こちらはほとんど終わりました。」


「ああ。ありがとう。珠翠。こっちもほとんど。ん?」


「どうなさいました。」

珠翠は手に持っていた武器を邵可が向いた方向構えなおした。


「こ、これは。」

そこには数人の男たちが倒され縄で縛られていた。


「・・・・・黄家の影・・・かな?いや、それにしては。」

そこで邵可は言葉を止めた。
自分たちが気配すら感じなかった。
それが影なのか・・・。しかも全てのものが急所に一発。
声すら発せれないうちにやられている。
もしこれが殺し合いなら?
彼らは死ぬことにも気づかないであの世逝きだ。


「お〜い。こっちにもいたぞ。」


燕青や静蘭の気配に気づき二人はその場をさった。
そして邵可は心のうちに記入した。

あれをやったものは。
自分が黒狼だったころと同じかもしくは・・・・それ以上の使い手。

ぜひとも欲しい人材だと。








「吏部侍郎」


絳攸が少ししょげながら部屋に戻ろうとするとそこには仮面をつけた人物がたっていた。
一瞬。
黄尚書がまた現れたと思い少し・・・かなりびびった。
よくよく見ればそれは、戸部で働いている小仮面と呼ばれる人物で、
なぜそういう名前が付いたかは、みてすぐ分かった。

ぜひ、吏部に来てくれと勧誘したこともある人物だ。
つまり有能。
まぁ仮面からして黄尚書と繋がりはあると思っていたが


「な、なぜお前がここに?!」


「なぜって私がここにいたらなにか迷惑になりますか?それよりも、私は貴方がいるほうが驚きましたが。」


「!!!」

それもそうだ。
絳攸は正直に言うかかなり迷ったが、言う前に


「余計な詮索はしませんが・・・・・貴方はどこに行くつもりで?」


「あ、明かりの付いた部屋だ。」


「ほう。明かりのね?夜這いですか?」


「なっ!!」

まさかそんなことを言われると思ってもいなかったので絳攸は顔を真っ赤にしたまま
何を血迷ったのか思いっきり殴った。


「そんなわけあるかぁ!!」
との言葉つきで。

は、その攻撃を避けようとしたがいかせん体に熱が戻ってきたようだ。
さっきの運動ぐらいでこうとはなさけん。
そう思いながらもは受身をしながらその拳を受け止めた。


「あ」

絳攸は、とっさに自分のしたことに顔を青くしながらに近づき


「お、おまえがあんな事いうから。」

といいながら手を貸そうとしたが、動きを止めた。
低かった声から少し高いすんなりと耳に入る声に変化した。

「・・・またしくじるとはなさけないな。私は。」


カランカラン


仮面は廊下に落ちていた。
静かな沈黙の中でその音だけが大きく響いていた。



?」


「久方ぶりだな。絳攸。」


「お、おまえ、なんでこんな?!」


「落ち着け。」

息を整えさせ一見落ちつたようだが。


「そうだ。すまなかった。俺は嫁入り前の女になんてことを!!」

鉄壁の理性が形無しに崩れていく。
はそんな絳攸を前に顔を変えず淡々と。

「いや。大丈夫だ。これは怪我のうちにはいらない。仮面を弾いたぐらいだ。」


「し、しかし。」


「絳攸」

絳攸は久しぶりに見た彼女の瞳に動けなくなった。
その瞳はやはり自分と初めて会ったときから変わらず純白だった。

綺麗だ。

絳攸は思わず触れそうになったが。


「・・・・言おうと思ったのだが、お前が行こうとしている方向はあっちだ。」


「へ?」

彼女の指差している方向が、自分の行った道と逆方向を指されていたことに
先ほどのように顔を赤めた。






絳攸が去って少し立ってから部屋のすみで、カタンという音がした。
鳳珠はその音の主が誰だか分かっていたので、仮面の下で眉を寄せた。


 「・・・まったく、私の養い子を、あんなに苛めなくてもいいだろう、鳳珠」


赤い服を着こなし赤い扇を持ちながら
誰もいなかったはずの場所に忌々しい男が立っていた。












2007・5・31