どうして気づかなかった。

自分を責めても仕方ないけど
もっと早くに気が付いていれば、彼女を一人にしなかった。









ほのかに香る夏の匂いと共に雨の匂いがした。



は一人墓参りに来ていた。
久しぶりに登る山をしげしげと見渡し昔よりも生い茂っている草に年月を感じながら。


鳳珠に言って休みをとった訳だが、
半日でいい というのに鳳珠や景侍郎が今日は来なくていいと言われた。
しかしはこれがすめば戻る気だ。



とうとう高天凱と碧遜史といった要である人物が倒れた。
今猫の手でも借りたいぐらいなのに、自分が一日抜けるだけで大した損害になる。




は母の名のごとく薔薇を抱えて山を登った。
あまり天候がよろしくない。
一面灰をかぶったような空からは雨が降り始めていた。

今日は、あの日のようだ。


が一歩一歩、歩くごとに天候はあれに荒れ始めている。
ようやくあの人の墓に着くと。



ピカゴロゴロ。



天空を切るように走ったヒカリを追いかけるように音が響いた。


嗚呼。


「いらっしゃるのですね。母様。」

落雷がすぐ近くまで落ちたようだ。
は雨でずぶぬれになったが、そこから動かずただじっと墓を眺めていた。
しばらくするとモヤモヤとした霧が形を作り人となった。
よく見慣れたその顔には慌てることなく見据えた。


。久しいな。わらわが見えるか?』


「ええ。見えます。相変わらずですね。貴方は。」


は変わったな。体だけじゃなく心も。』


「そうですか。私は変われたんですね。」


。わらわはおぬしを         








鳳珠は、少し疲れたようで筆を止めた。

先ほどのインパクトあった秀麗の変わりぶりがまだ尾を引いていた。
まったく手の出しようがないくらい彼女の変貌は驚いた。
引き取って貰うまでの間何もすることが出来なかった。

秀麗はかなり雷を嫌っていた。
あれほど嫌いになるなんてなにか理由でもあるのか。

そんなことを思いながらも。
同時に思い出す、まったく似ていない妹とのやり取りを。

一日休めた言ったのをかたくなに断り続けていた。
来るなと言ったが最後まで頷くことはなかった。
強情だったが、今日来ていないことにほっと安心していた。

いや、いなかったほうがいいとかではなく。
むしろいて欲しいくらい彼女は優秀で下手したら自分より仕事をするだろう。

だからこそ。彼女は働きすぎだった。
眠れないといったときよりも顔色は若干良くあるがそれでも普通より悪い。

仕事よりも彼女の健康が心配だったからだ。
休みを取りたいといったとき。
コレ幸いだと思った。
だから、気が付くことができなかった。ことをあせりすぎた。
仕事が忙しかったのもある。けど、知るべきだった。


どこに行くのかということを。

そうすれば、その日一人にはさせなかった。





分かったのは次の日。


「鳳珠。くんが来ません。」

その一言からだった。

鳳珠は仕事の手を休め彼女がいそうな場所を探した。
途中何度も驚かれたがそんなこと気にしちゃいない。

体から違和感が取りぬぐえない。
嫌な気がする。


どこをまわってもいない。
最後に訪れた書庫にはただ埃だけがキラキラと光っている。
鳳珠は館かと思い家に連絡しようとしたが、
水溜りを見つけた。それから・・・・・・・人の手を。
鳳珠がいそいでそこに行くと。
水浸しの中、が青い顔をしながらまるで死んだように横たわる姿があった。
鳳珠は、全身の血の気が引いたようにを起こし上げた。
ピタピタと頬を叩いても起きる気配がない。


「おい。おい!ッ!!!」


「うるさい。・・・・・あぁ鳳珠か?すまない。今日の仕事に。」

生きていた。鳳珠は不覚にも泣きそうになるのを耐えて。


「そんなこと言ってる場合か!!お前。なんで。」

鳳珠は我に帰りを見た。
こんなことをしている場合じゃない。


「・・・・・・館に戻るぞ。」



彼女の体温は氷のように冷えていた。







医者を呼び治療が終わると、
風邪と睡眠不足に栄養失調とのことだった。
発見が早かったおかげで大事にならないで済んだが、当分安静とのことで。
医者がいなくなるとは視覚があわない瞳でかすれた声で語り始めた。


「雷、姉様嫌いだったろう?」


は」


「分からないんだ。鳳珠。悲しくなかったんだ。皆が泣いている意味が分からなかったんだ。」


「私は変わった。そういわれた。」


「何も感じないままなのに。何も分からないのに。鳳珠私は・・・・・・・いつでも遅いんだ。」




らしからぬ、まったくつながらない会話はふっと気を失うかのように眠る本人の手によって幕を閉じた。

鳳珠は、すっ彼女に触った。
温かい。
先ほどの彼女を思い浮かべた。
氷のような冷たい体温で横たわり。何も反応しなかった彼女を。

死んでしまったかと思った。


仕事を行く気にはなれない。

いつの間にかいなくなられることが、こんなにも不安でたまらない。



鳳珠は、仕事を運ばせプチ仕事場とかしたの部屋で
黙々と筆を走らせた。

時々、濡れタオルを変えながら。


「・・・・・・・・・。」

サラサラと音が室内の中に響いてる。


「ぅ。」

鳳珠の筆が止まった。
彼女のほうをみると、目を開けているが覚醒していないのだろう。
鳳珠は、に近寄り体温を手で確かめた。
まだ熱は高い。


「大丈夫か?のどが渇いたなら。」

その言葉を途切れさすように、鳳珠の手を掴みほうにっこりと笑うと。


「愛している。」


その一言を呪文のように唱え、また彼女は目を瞑った。
鳳珠は固まりその場からしばらく動けなかった。














2007・5・24