薄暗い暗闇の中で、ほのかに息づく生き物の声。
昆虫が、木々が、星が、

彼らの存在が鮮やかになればなるほど、貴方の存在は色づく。


だって貴方は、ここにいる何よりも空ろで歪だったから。





前のときもそうだが、彼女は私を驚かすことに関して天才的だ。
楸瑛は、いきなり前に現れた彼女に苦笑いしか出来なかった。




は、鳳珠のことがあり少し眠るということが出来始めた頃。
少しといっても2.3時間くらいだ。
なので。
他の皆が起きるまで目を瞑っているのは不毛だしどうせなら次に書く風景でもみるか。
と思い立派な木に登り風景を眺めていた所。


毎日修羅場で2.3時間しか寝ていないということが災いしたのだろうか。
彼女は新鮮な空気をすい温かい風に浸かり自然と目を閉じていた。
それからしばらくするとは、誰かの気配で目が覚めた。


男と女の戦い?
ともいえる言葉のやり取りそこから彼女は誰と誰が会話しているのか分かった。


一人は顔見知り、一人は・・・・・そうだな。近しい血を感じるもの。
その会話は最後に男の呟きになりは、木から下りた。


楸瑛は、いきなり現れた気配に警戒を強めその姿が女であることを理解すると、

「君は妖しかな。突然現れその美しい姿で私を誘うのかい。
妖しでも君に誘われたいと思うのは男の性だろうか?」

楸瑛はの手に口付けを落とした。
は、そんな姿をただ一瞥し


「人は皆妖しを心に抱いている。人の形をしているものを人と呼ぶならば、私はまだ人だろう。」


「おや、つれないな。それにその服。なぜ君は女人なのに官史の格好をしている。」


「私を捕まえるというならば、お前もそしてお前の友達も捕まることになるな。」

楸瑛は、その女を強くにらみつけた。彼女が自分たちのしていることを知っているとなれば。
楸瑛はおのずと手に力を入れた。


「知っているのかい?」


「・・・・雪は嫌いか?」

楸瑛は的外れな答えに何を言ってと言おうとしたが。
その意味を理解するとはっとすると前に立っている女を見た。
顔は暗がりで少ししか見えないがそれでも十分整っている顔。
楸瑛は恐る恐る聞いた。


「君は、か?」


「久しぶりだな。藍 楸瑛。」

楸瑛は、ただ苦笑いしか出来ず剣の柄にあった手は下ろされていた。


「またしてもやられたよ。君には。」







「君はやはり月の君だったね。とても月が似合う。」


「そうか。」


「彼にあったのかい。」

楸瑛は、友人がこのところ機嫌よく仕事している姿を思い出した。
知りたかったことが分かったかのように。
なにより急に彼女のことを聞き出さなくなった。だからこその質問を彼女に投げかけたのだ。


「彼は縁を自ら選んだ。」

楸瑛は、まるで兄弟と話しているようだなと思った。
彼女の言葉は、ぐしゃぐしゃに絡まった糸のように難解で、また面白くもある。
楸瑛はふと彼女に目を向けると先ほどまでの問いが頭を占めた。


「君はどしてここにしかもそんな格好で。」


「私の友人の僅かながらの手伝いだ。」

彼女の口から友人という言葉が出るとは、楸瑛は少し驚いた。
自分の弟のように友人というものなど誰一人いません。みたいな顔をして友人・・・・。

胸がモヤモヤした。
他の誰かが彼女を知っていて自分の知らない誰かを彼女が語るのが嫌だった。




楸瑛はから目を離した。
ゆっくりと静かなとき。あの時感じた心地よい沈黙。

二回しかあってないのに彼女の傍は居心地がよかった。
サラサラ流れる風も、シンシンとした生き物の鳴き声も、月の暖かな光も。
彼女がいて知ったものが多い。



「君のあの絵は。」

楸瑛はあの絵を手にしてから色々な聞き込みをした。
一面真っ白に覆われた一枚の絵。あの絵は誰も持っていないの絵。

「・・・・雪景色だ。」

景色から動かなかった顔が楸瑛のほうに向いた。
その顔からはなにも読み取れなかったが、
楸瑛はなぜだか

「雪が好きなのかい?」

答えにしばしの間があった。ほとんど即答に近い答えをする彼女にとって珍しい間だった。
楸瑛は不思議に思い彼女のほうを振り返ると。


「狂おしいくらい愛しいけど、もろく儚いだから大嫌いだ。」



その言葉が全てを物語っていた。
そしてそれを語る彼女を見て楸瑛は後悔した。

見なければよかった。

そうすれば、居心地のよい友人で済んだかもしれない。


・・・・・彼女にこれ以上興味を持たなかったのに。





知ってしまったら、もう逃れられない。






2007・5・14