とうとう来てしまったこのときが。
私は貴方に会いたくなかった。
だって貴方は私に会いたくなかったはずだから。
同じ色だったけれど今ではあい触れない。
両極端の色。
「大丈夫なのか。」
そう心配してくれる仮面の友。
「大丈夫だ。」
私は顔をそらさずに言った。
何も感じないのだから。その言葉を飲み込んで。
「すすいません。遅刻しました。」
「時間に遅れるなど問題外だ。今すぐ帰るがいい。」
黄尚書にそういわれている人物を見れば、秀麗と燕青だった。
は声で分かったが、あの時間厳守を頑なに守りそうな姉さまが遅刻とは。
そして2人の近くに絳攸がいるのを見つけては納得した。
絳攸の才能に色々と言いたい事を押し込めながら。
「・・・・尚書。今は人手不足。そんな事いっている暇はない。」
鳳珠は、を一瞥すると。
言いたいことを把握した。ちらっと絳攸を見それから二人に戻ると。
「お前たち、それを運びゴミを片しておけ。終われば次を指示する。」
というと部屋へ戻っていった。
はそれを見届けると、驚いている彼らを一回も見ることなく仕事に戻った。
「す、すごいわね。ここ。仮面が二人も。」
「小仮面と大仮面だな。」
秀麗と燕青は書簡を届けに行っている廊下で話していた。
初めは、黄尚書の仮面に驚かされたが、次にまたもう一つの仮面。
幻かと思えば、ちゃんと喋った。身長も、二番目のほうが低いし
それによくよく目を凝らせば、少々仮面のデザインが異なっている。
「まさか仮面とはやられたわ。けど、見てなさい。絶対認めさせてやるんだから。」
何かに燃えた秀麗に拍手をしながらも燕青は、自分のやるべきことを考えた。
それと、少し懐かしいものをあの小仮面から感じたような。
「何しているの。燕青!!仕事仕事!!手を動かしなさい。」
燕青は苦笑いをしながらも彼女について仕事を再開し始めた。
男装した秀麗が外朝で働くようになって、数日が経とうとしていた。
は朝から夕べは仕事を夜はただぼーっと過ごしていた。
眠れない。
何かを感じるわけでもない。
ただ足りないものを探している。そんな風にも思えた。
鳳珠や、景侍郎は気づかない。いや、気がつかさないとも言うべきか。
だが、なんだろうな。血かも知れない。
誰にも気づかれないようにしていたのに。
「あれ、小仮・・・官史。寝不足ですか?」
秀麗は、の不調に気が付いた。
は、サラサラと書いていた筆を止め顔を秀麗のほうに向けると。
「今は忙しい。それに暑いからな。少し疲れているだけだ。」
そういってまた書簡に向かう。
そんな様子をみて秀麗はの傍にお茶を置いた。
「飲んでください。疲れが少し和らぎますよ。」
そういって通り過ぎていった秀麗の気配。
は置いてあったお茶に少し目をやった。
薄い緑色をした透明な液体。しばしそれに見入っていた。
だが、それはくぐもった独特の声がする人物によって途絶えた。
「おい」
「・・・・・なんです?」
「話がある。こっちへ。」
やはり、切れないものだな。血筋とは。
そう思いながらもは、鳳珠の言うとおり部屋のなかへ入った。
お茶は、一口も飲まれずただ波紋だけが広がっていた。
「寝ろ。」
入ってくるなり、長椅子に座らされた。
鳳珠は、秀麗の言葉で動揺したときに、ばれてしまったようだ。
・・・・今度からはもう少しうまくやろう。
そう思いながらは立ち上がると。
「・・・・藪から棒になんだ。私はまだ働ける。」
鳳珠は、再度を、長椅子に座らせた。
「いいから、寝ろ。」
は、少し考え鳳珠に反撃した。
「・・・・鳳珠。お前も寝るなら寝よう。」
「・・・・・・分かった。」
は、しぶしぶと言った鳳珠を見つめた。
こうなると分かっていた。
どうせ抵抗しても無理やりでも寝るらされるだろう。だったら、こいつも一緒に寝かしつけてしまえばいい。
そう考えたなりの判断だった。
それから、は、長椅子によりかかり。
目を瞑った。何回も何回も似たような景色が流れる。
今までの記憶。
は、生まれてから一度たりとも夢という夢を見なかった。
ただ、起こった出来事を永遠に巻き戻し見ているだけ。
目を開いて、横に寝ている鳳珠を見た。
仮面をつけたまま寝ている。
・・・・・慣れなのかもしれないがよくこの暑いつけたまま寝れるな。
は仮面のまま寝ている鳳珠をもう一度一瞥すると、自分の仮面を手に取った。
そして、そこから出ようとしたが、
「どこに行く?」
後ろから伸びてきた手によって邪魔された。
「起きていたのか。」
「お前が寝るならということだからな。」
「・・・・・・・。」
「寝れないのか?」
「いろんなことが起こった。今までは忙しかったから疲れて寝ていただけだった。」
「今は夢を見ると?」
「夢ではない。記憶だ。」
そういったを見て、鳳珠は
「。こっちへ。」
自分のほうへ手招きした。
は鳳珠の傍へ行くといきなり頭を撫でられた。
は、その行動をただ不思議そうに眺めていた。
「?これは。」
「気休めかもしれないが、人の肌は少し心が落ち着く。だからだ。」
確かに、わずかに伝わってくる人の体温。
暖かくてそれでいて懐かしい行動。
あの人も、よくやったその行動。
は下を向いたまま動かなくなった。
「どうかしたのか。嫌だったのか?」
鳳珠は、手をから離そうとしたが、は鳳珠の手を掴み。
「いい。・・・・・・これがいい。」
そういってはほのかに微笑んだ。
2007・5・6