なんてことを言ったしまったんだ。俺は。
自分の行った言葉を反芻し、これじゃどっかの常春頭のようではないか。
絳攸は、どうにか言い訳を言おうしたが、
全然考え付かん。
鉄壁の理性はどかにやら百面相をしながらぶつぶつ呟いている。
「家に?・・・・ああ。分かった。」
は先ほどからこの男の奇怪な行動そして語原から、
迷子だということは認められないが、どうにかして家に帰りたいのだなと理解した。
「へ・・?い、いやそんな。」
まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかったので絳攸は慌てた。
「・・・・早くしないと日が暮れるがいいのか?」
それは駄目だ。あの人に早くこれを渡さないといけないし、何より今日の仕事が!!
「で、では行こう。」
「まて。」
前を行こうとする絳攸の服を掴みは言った。
「まず、場所を言え。」
この男に任せると、迷子になる。これは直感でもなくこの短い間で分かったことだった。
場所を聞いたは、掴んだ服を離した。
一度だけじっと絳攸をみるとすぐ向きをかえ進み始めた。
縁とはかくも恐ろしいなと感じながら。
藍の服を綺麗に着こなした男・楸瑛は、ある人物を探していた。
友人と言うかその人物曰く腐れ縁と言うか。
今日仕事に来なかったのは、養い親からの無茶な命令だと分かった。
だが、宮城から直ぐの場所なのにどうしてあの子は、一日中かかるのだろう?
彼の稀有な能力だと分かっていても、問い詰めたくなるときがある。
「まったく、絳攸一体どこへ行ったんだい。」
人の話ではここから山方へ行ったというが、宮城とは逆方向だ。
本当に素晴らしい能力だ。
楸瑛は、山のほうへ歩いていくと通り道になにやらマントを頭まで被った変な人物と
よく見知っていた人物に遭遇した。
「絳攸。」
疲れきった顔をした人物に声をかけると、ぱっと顔を上げげっそりとした顔つきのままその男を見上げた。
本当なら、あそこで別れればよかったんだ。
けどここまでつれてきてくれたのにそのまま礼もせず
帰してしまうのは俺の品性が疑われる。
それに女一人の夜道は危ないな。
そうだ。だから呼び止めたんだ。・・・・・そうに決まってる。
館につくと絳攸はを食事に誘おうとした
だがその前に、家人がの前まで来ると
「主人がお呼びです。こちらに。」
といって連れて行ってしまった。
「なんだ、君の養い親の知り合いかい?」
「・・・・俺はあんな女始めてみたぞ。」
絳攸は頭をフルに動かし記憶を辿ったがまったく該当しない。
そう思案していると楸瑛がからかった。
「あの方は、女性だったとは。女嫌い返上だね絳攸。」
「〜〜この常春頭がぁ。俺はただ純粋に礼と夜道がだなぁ」
「分かった分かったよ。けど、彼女たぶん夜道の心配はいらないと思うけどね。」
楸瑛は細い目をして彼女の動きを思い出していた。
一瞬の隙すら与えない無駄な動き一つすらしない
並みの男になら負けないだろう強さが伺えたそれは、武官としての楸瑛の意見だった。
音がまったく聞こえない離れの場所だった。
そこだけがなにか切り抜かれたかのように静かに時が流れている雰囲気をかもし出していた。
「失礼します。お連れしました。」
静かに歩いていた家人がを連れてくるとすぐにお茶をいれそのまま部屋を退室した。
「・・・・・マントを取れ。」
は言われたとおりマントを取り全貌を現した。
相変わらず母親譲りの顔と父親譲りの赤の瞳。
髪を止めている一本の簪が妖しく光り輝いていた。
しばらく沈黙が続くと黎深は扇を広げ目をそらしながら語った。
「珍しい拾い物をしたな。絳攸のやつめ。」
「お変わらないようで安心しましたよ。叔父上。」
「ふん。お前も変わらないな。」
黎深の高圧的な態度に平然としながらは返した。
「礼を言おうと思いまして。」
その礼は自分が旅に出たときの後。
影をつけないでいさせてくれたこと。の動向を探らせなかったこと。
色々だ。
「いらん。形式だけのものなど誰がいるか。」
黎深は、態度で示した。
つけてもお前なら簡単に潜り抜けるだろう。
それならつけても無駄なだけだ。と
「・・・・では、頼みごとを。」
「・・・・・・・なんだ。」
「私のことを父様たちに知らせないで欲しい。」
「・・・はん。なんだそんなことか、それならば頼まれても教えん。
兄上たちを捨てたもののことなど。」
しばらく間が空いてから黎深は、扇の後ろからまるで射るかのようにを睨んだ。
「そう。それでは失礼します。」
はそれを聞くとただ静かに受け流し席を立ち扉を開いた。
そういって部屋を出て行ったを見送ることもせずただずっと扇を開いたまま口元を覆っていた。
絳攸が入って来たことも気がつかずただぼーっとが座っていた席を眺めていた。
そこには一口も口つけられていない冷えたお茶だけがあった。
そして、
「そうか。帰ってきたのか。」
そう一言呟いて、その表情は誰の知ることもなく夜が更けた。
2007・4・14