「こんにちは」

はじめて他人に屈辱を味わされて時に聞こえた
深く沈むようなそれでいて透き通った声
意外と近くに聞こえたことに目を覚ませば、
見知らぬ男に膝枕をされていた

普段の僕ならば咬み殺していたけど
その人物が、あまりにも自然でこの場がすべて彼に支配されているようだった
黒い目と青黒く伸びた長い結われた三つ編みが前に流されている
顔の作りは端正で中性的であるが体の造りがそれを否定する
長い手足にがっしりとした骨格
そして流れ出す雄として香り
彼は、最初の言葉から何もいわず本を読んでいた
片手には紅茶を持ち、ふんわりと香りペラリと自然にページが捲れていく
一瞬だけ僕は死んだのではという思いにたどった
が、
硬い膝枕の感触にそれを否定しそして否定するために僕は彼に声をかけた

「君、なにもの?」

「んー縁」

彼は紅茶を飲みながらページをめくり本を読んでいた
あまりに自然すぎて一言で終わった説明をそうと流しそうになった

「ここは」

といいかけて体を上げようとした雲雀は止まった
体全身に痛みが走る

「動かないほうがいいよ 君怪我してんだから」

と遅い忠告が走る
雲雀をそれに苛だちがはしったが
それよりも人がしゃべっているのにまったくこっちをみない
こいつの存在の苛立ちの方が強い

「まったく君が女じゃなきゃ手当しなかったよ」

そういって目の前の男はティーカップを地面に置いた
雲雀は、その言葉に固まり顔を赤くするとすぐ近くにあったトンファーで顎を殴った

むかつくことにその男は本を片手にひょいと避けると

「傷に触るよ」

といってトンファーを交わす
真っ赤な顔をちらりとみて彼は納得と言った顔をし本をしまうと
殊もあろうが、頭を撫でて

「大丈夫!立派に成長するよ」

ますます拍車をかかせたのは言うこともない


一方的な戦いが終わり
雲雀は隅っこで縁を睨んでいた
縁は困った顔をしながら、内心驚いてもいた
彼も少女になっているんだなと
自分が手をとった小さな少女を思い出す

目の前の子に微笑めば警戒した猫の用に威嚇する
おんなじ反応に苦笑しかでない、なぜだか彼らにいいや彼女らに嫌われたみたいだと

ピヨピヨとその空間を壊すように小さな鳥が入ってきた
縁は自分の肩にとまったその鳥に見覚えがあった
ああ、やられたんだと悟ったのもといっても持ち主を思い返して
彼に同情するものはいないとそして主を捨てた鳥になんの感情も抱かなかったが、
完全に雲雀がこちらを見ている
縁は鳥を放すと鳥は雲雀の方へいった

「なんのつもり」
肩にいる鳥をやや嬉しそうにみながらも威嚇を忘れない雲雀に
笑いを堪えながら

「俺にいるよりもお前の方が幸せだとな」
いってたと縁は笑った

またくりひろがれると思った戦いは起こらなかった
ただ雲雀は目を開いた状態でそれが終われば急に背中を向け鳥に校歌を教えはじめた
骸といくぶん違う反応に縁は男とは違う背中を眺めていたが、
縁はゆっくりと目を瞑った
自分があの少女の手をとったときから決めていた物語を描く

決して長くない時だったが、初めてを色々教えてくれた彼らにせめてものプレゼント
それは、幸福か不幸か彼は分からない
だって物語の紡ぎ手はそれを知る方法がない