【少しでもこの気持ち届けばいい。】
平和を愛する、皆が愛する人物が私は嫌いです。
いつもにこにこと分厚いその鉄仮面。
自分を身売りしてでも助けるその優しい心。
すべてが嘘みたいな人だった。
私は信じなかった。彼の存在を。
ありえない。体が拒否反応を示す。
けど、私だってこの言いようのない気持ちを彼にぶつけられるほど、子供でもなかった。
彼に会わなければいいと、そして出逢った。
「だからってオレ様のところにいるお前はかなり変だ。」
「ん?そう?私は結構バイキンのことは好きだからね。」
「・・・・・・答えになってない。」
「私だけがこの世界でたぶん普通の人間なんだよ。だから、人間らしいものに惹かれ、
逆に作られたものを遠ざける、普通だよ。本当に平々凡々なんだよ私。」
「オレ様が人間らしいと?」
「近しいんだ。バイキン私だから好きよ。あんたのこと。」
「勝手にすればいい。」
「うん。そういう優しさに不器用なとこも好きよ。」
逃げたんじゃないよ。あの時。
やっと見つけた。そう思ったの。奴を出したら、貴方は少しでも私を見てくれるでしょう?
私の存在はこの世界にはない。だから。
貴方は私を見ない。奴が嫌いな変な奴にしか認識されなくとも。
私の居場所はここだから。
私は平和を愛する、皆が愛する存在よりも
この世界で歪とされている貴方のほうが、皆に嫌われている貴方のほうが、私は愛しい。
誰もが嫌うオレ様に近づいてきた女。
何をしても動じないでただニコニコと笑う。
最初はいけ好かない女だった。むしろスパイかなんかだと思ってた。
だって彼女は最初敵方のほうにいた。
いつのまにかいたあいつをどうにか排除しようとしたが、オレ様の美学に反する。
武器を持たない人間に武器を使うのはいけない。時に例外もあるこの美学。
武器以上に力がある奴の場合は免除される。それと必要に駆られたとき。
何かすればその美学の例外を使おうとした。
けど彼女は何もしなかった。それどころか、食事や掃除洗濯などしてくれた。
ドキンちゃんも彼女の存在を許した。料理がうまいがポイントだろう。
そして彼女と言う存在を徐々に知っていって今では傍にいることすら許してしまっている自分がいた。
一生得ないだろうと思っていた。温もり。愛。
くだらないと遠ざけていたものが、今こんなにも離しがたい。
きっと自分は飢えていたんだろう。気が付かないうちに。
だから彼女の言葉がこんなにも自分を温かくする。
けど、あいつはオレ様の嫌いなやつの話をするとき少しだけ悲しそうだ。
あいつは、本当はやつのところにいたかったんではないかと思う。
本当は・・・・・・きりがない。あいつはやつをどう思っているのか。
オレ様には関係ない。そのはずなのにあいつとやつのことを考えると胸が苦しい。
一体何なのだ?病気か?オレ様はバイキンで病気を巻き散らかしているほうなのに。
きっとあいつが病気の原因だ。温かくしたり、苦しくしたり。
こっちを向いて、ただ笑っていて欲しい。
それなのに彼女はやつの話をして悲しそうに顔になる。
そんなやつよりこっちを見て。
おまえはオレ様だけをみてればいいんだ。
けど、おまえはオレ様を見ない。
彼女は僕のことを見ない。
最初倒れている彼女を助けたのは確かに僕だった。
ほとんどの人は僕に助けられ、お礼をいい次には慕ってくれる。
それなのに彼女は違かった。
最初は、ただ緊張しているだけだと思った。
彼女は帰る場所がないといっていたし、心底疲れているのだろうと。
数日間彼女は僕らの家にいた。
彼女は最低限話さなかった。ただじっと僕らのことを眺めて時々仕事を手伝ったりしていた。
僕は、彼女がそんな人間だと思っていた。
だから少しでも笑わせたかった。
だから案内という名のコミニュケーションをはかったんだ。
それが、きっかけだった。
いつものようにバイキンマンが暴れて、退治してそれで終わりだったはずなんだ。
隣にいた彼女に怖い目を合わせたと思って降りてみると。
初めて彼女は笑った。それから彼女は僕を横切って、どこかへ飛ばした彼の元へと。
それから彼女は帰っていない。
止めるべきだった。後悔した。けど、彼女が笑った姿に、嬉しくて苦しくて。
壊れたように動けなくなった。
次にあったのは、偶然。
普通に買い物をしていた。鼻歌を歌いながら幸せそうだった。
僕は彼女に声をかけようとしたんだ。
どうして、いなくなったの?
今どこにいるの?
バイキンマンになにかされたの?
かける前に現れたマントをずッポリ被っている男。
彼女はその人物に優しく笑いかけ、荷物を渡していた。
アレは誰だ?僕の家にいた頃とは違う。
僕にはあんなふうに笑ってくれなかった。あんなふうに頼られなかった。
二人の姿を遠めに見ながら、そのマントの男の正体が分かったとき。
自分の中の何かが、うす汚れてどろどろになるのを感じたんだ。
最初に会ったのは僕なのに、彼女は彼に笑いかけるんだろう。
そいつより僕に笑いかけてよ。傍にいてよ。
彼がいなくなったら君は僕に笑いかけてくれる?
この気持ちが少しでも
伝わればいい。
2007.9.10