それはとても綺麗な月夜の晩
一方的に言われた別れ話に、俺は彼女に疑問と怒りしかわかなかった。
なぜだ。と問うまえにラビと共にいる彼女の姿を見て、理解した。
は、俺じゃなくてラビをとったんだ、と。
俺の中で、何かが崩れた。
自分を支えるために醜い気持ちを彼女に叩き続けた。
彼女の双子の妹・サキが俺に気があることは知っていた。
それを利用して当てつけた。
よりも優しく甘くサキに接した。
に会っても、存在すら無視した。
けど、の横にはラビがいつもいる。
はラビに守られていた。
前だったら、自分の横で食べていたのに、
うどんが好きな彼女とそば好きな俺といつも騒ぎあっていたのに。
今は、ラビのよこで静かに笑っている。
あんな顔、俺には見せたことがなかった。
「ユウ、血でてるよ」
サキの言葉ではっとした。
いつの間にか手から血が流れている。
サキが、神田の手をハンカチで包む。
ピンク柄のソレは、がもたないものだ。
彼女は淡い紫を好んでいた。
そして、哀しそうな顔を必死に隠して笑う。
その姿は、一度もがしたことがない。
神田は、サキが無償に愛しくなった。
顔は、そっくりだがまったく似ていない彼女たち。
話し方も、サキは砕けて、は敬語だ。
中身もイノセンスのスタイルすら違っていた。
神田は、を忘れてはじめて真っ直ぐと自分をみるサキをみた。
そして神田が、サキを愛した日。
その日は、とても綺麗な月が出ていた。
あの日のようだと、皮肉げに笑う。
窓を開ける。
風が、なま温かく感じる。火照った体にはちょうど良かった。
「うぅん」
ベットのなかで、サキが動いた。
神田は、その姿がとても愛しげに目を細めた。
サキを抱きしめようと、神田がベットに戻ろうとした。
チリン
かすかに聞こえた鈴の音。
『ごめんなさい、許してください』
久しぶりに聞いた、彼女の声。
神田は、サキを抱きしようとした手をとめて窓を振り返った。
「」
名前を呼ぶ声が知らずに出ていた。
神田は、窓から出て上に何もは羽織らずズボン一つのまま走った。
彼女の今日の遠くない任務先を思い出す。
感覚のみで走った。走って走って、息がおぼつかなくなるほど走った。
着いたは、無数のAKUMAの残骸があった。
壊れた機械が横たわって、不気味なほど静かで、音一つしていなかった。
チリン チリン
『私は、貴方を愛してますよ』
声がした。その方向を見てみれば、黒い服を身に包んだ少女が横たわっていた。
最初からそうだったように彼女はそこにあった。
神田の胸の音がうるさいくらいなっている。
恐る恐る近づいて名前を呼ぶ。返事はない。
顔が分かるほどに近寄れば、彼女から血は出ていない。
静かに寝ているようだ。
しかし、神田は彼女の死をはっきりと感じた。
柔らかく笑って幸せそうに笑う彼女の姿は、生きていたときには見られないものだったから。
彼女が、彼女自身を嫌っていることを知っていた。
死ぬことを望んでいたも知っていた。
なんでだといっても、彼女は笑って誤魔化すだけだった。
神田は、の頬に手を当てるとまだ温かい。
死んだと分かっていても頭がついていかない。
「あぁぁああああああああああああああああああああああああああああ」
静かな林の中で、神田の声だけが響いた。
どうしたら、君を生かせてあげれたんだろう。
2008.11.11