それはとても綺麗な月夜の晩

「さようなら」

そういって一方的に言葉を告げて別れました。
私たちの縁はそこで終わりました。



。それで、本当に良かったんさ?」

「ラビ」

私たちの前には、神田と、同じ顔した私じゃない女の子が仲つまじく喋っている。
私は、二人の声を遠くに、目の前の人を見た。
泣きそうで心配している顔。

「いいんですよ。それよりも、すみませんね。ラビ」

「えっ」

「サキのことですよ」

ラビは、私と同じ顔の少女、サキを見てそれから私を見て、
苦笑しながら頭を撫でてくれた。

「いいんさ」

私はラビに出来ることはただ笑うことしか出来なかった。
それが精一杯で、

それからラビは笑いながら、

「こないだ見たがってた本見つかったから行こう」

そういって私をこの場所から逃がしてくれる。

この人は、優しすぎる。私なんて捨て置いてくれてもいいのに。
けど、その優しさに縋っている自分は、なんて醜いのでしょうか。



リリンと鳴る鈴の音。
扇に付けられたそれは、イノセンスとは無関係な、ただの飾り。
けどなによりも大切なもの。
あの人が土産だといってなげつけて渡された。
少し赤く染まった顔に愛しさを感じた思い出の品。
はくすりと笑った。
風を切って、アクマを切って、他に何を切ることができるだろう。


この世界を嫌悪していました。神を憎んでいました。
なによりも自分を殺したいほど自分の存在に絶望していました。


「強いね」

そして、この日が来ることを分かっていました。

「貴方はノアですね」

褐色の肌に、紳士のような格好をしたすらりと体格のいい男の方が目の前にいた。
唐突にそこに現れた人物に驚くことなく、前から知っていたかのようにはその男を見た。
その男、ティキはその態度を訝しく思ったが、顔に出さずに
目の前にいる大量にアクマを破壊した少女に尋ねた。

「君は、?」

「ええ、その通りです。貴方は私を狩る人ですね」

「へぇ〜分かってんの?じゃぁ、話は早いや。殺されてくれない?」

「いいですよ」

「・・・・・・へ?」

「何ですか。素っ頓狂な声をだして、殺したいのでしょ」

「え、まぁそうですが、そこは嫌だ!戦ってやる!くらいないの?」

「なんで勝ち目の無い戦いをしなければいけないのですか?どうせ逃げれられないのに」

「はぁ?」

「出来れば最後は一人がいいですね」

「君さ変わってるよね。結構五分五分だと思うのに戦わないで、何自殺希望?」

「自殺ならば人の手でやらず自分の手でやります」

「じゃなんで?」

「・・・・・・取るに足らない話ですが、私は未来が見えます」

「それって凄くない?そんなサラっと言っちゃっていいの?」

「いいえ、屑のような能力です。未来を思って今を生きなくてはいけませんしね」

「ふ〜ん、厄介だねぇ。つまり俺に殺されることが分かっているから、無抵抗ってこと?」

「そういうことですが、なにか?」

「なんか違うなぁ。ねぇっだっけ?」

「何ですか。ノア」

「何かを隠してない?」

「何も、と言いたいことですが、先ほど貴方が言ったことが当たりみたいなものです」

「自分の手じゃ出来なかった?」

「出来るわけがない。だって私は幸せでしたしね」

「最後くらいはお望みのままに」


大声量で、心臓の音が聞こえる。心臓に手を突っ込んだ姿のままティキは、
を木々の音しか聞こえない場所へ置いた。
は、泣きもせず喚きもせずただじっと自分の顔を眺めているだけだった。
きっと同じなのだろう彼女が見た未来と、なんだか仕組まれている感じが否めないが、
ティキは、心臓に穴を開けた。

小さなうめき声と、のイノセンスから鈴が鳴った。
彼女はティキに目で促し、


「バイバイ。


そういってティキがいなくなるのを、感じると、彼女は鈴を握った。
空を見れば、あの日と同じ月。
彼のあのときの顔が思い出す。
綺麗な顔を歪めてぎりりと唇を噛み締める
傷つけてしまった大切な人。


「ごめんなさい、許してください」


誰もいない場所で私は一人ぼっち。
これでいいんだ。これを望んだ。
そう心に言い聞かすのに私の体は言うことを聞いてくれない。
目からは涙が溢れ出す。

「私は、貴方を愛してます」

月に手を伸ばした。届かないことを知っていても、

貴方に会えたことも貴方と愛し合えたことも全部全部が幸せでした。

最後に見えたのが貴方の笑顔なら私は、

手からするりと鈴が落ちた。チリンと音を立てて。



私は最後まで自分勝手です。だから、好きな人には我が侭を押し付けます。



「あんたは優しすぎて酷だ」


泣かないで下さい。あんなやつ忘れた。くらいに罵られるほうがましなんです。


ラビ。私・・・長くない。

彼女が、ユウと仲良くなっていく姿をみて、大好きな二人だからと諦めた。
本当は諦めきれてなかったみたいで、俺は、彼女に似た少女に恋することにして、
それでものどの渇きは潤わなかった。

だから、彼女が泣いて縋りついたあの日。
俺は、もう抑えきれなかった。



残された時間を、ユウではなく自分を選んでくれた。
たとえ、それが彼女のユウへの愛しさで、俺を利用しているとしてもよかったんだ。

ユウじゃなくて、俺に笑いかけてくれる、俺を頼ってくれる、幸せだった。

彼女が長くないといったのは、体じゃなくて心だと気付いたのは何時だったか。


ラビ、私は次の機会に死なないと壊れてしまうようです。
彼女が狂ってしまう。そう呟いたとき。
世界はとっくの昔から狂っているのに、どうして彼女がそんなことを言うか理解できなかった。
教団にも隠していた能力 ユウにでさえ教えなかった 彼女の力は

あまりにも魅力的であまりにも悲惨だった。
最後の最後まで彼女は俺といた。
真実をユウに言っても良かったけど、
の最後は俺だけのものでの秘密も俺だけのもの

なぁ、
言えなかった言葉を吐き出す。

「俺はあんたが好きなんだ」

知らなかっただろう?