彼女は一体何なのだろうか
急に現れた人物 真っ黒な服 真っ黒な髪 真っ黒な瞳
口元を隠すように顔半分を覆っていた。
あの頼久に、一太刀入れた、半端ない腕前。
声から女だとわかった。
それ以外は不明。
そして一番大事な事は彼女が鬼側つまり敵側の人間だと言うこと。
「そのような人物が、鬼の一味だと」
興奮冷めやまぬ様子で幼い姫 藤姫は昨日の出来事を聞いていた。
鬼の話よりも興味を惹いた人物について。
「はい。鬼の特徴である、金の髪、青の目全てのことと異なります。仮説ですが、普通の人間の可能性があります」
鷹通は、眼鏡をくいっとあげるとその人物について述べた。
「なぜそう思うんだい?」
のんびりと扇をあおいでいた友雅がちらりと視線を鷹通に向けた。
鷹通が長い沈黙をしていると、藤姫の下へ一人使いがきた。
藤姫は使いの言葉を聴くと場を仕切り直すように。
「すみませんが、頼久が皆様にお伝えしたいことがあると。」
頼久。そう呼ばれて一人の青年が入ってきた。
「おやおや、怪我のほうは大丈夫なのかい」
「ご心配かけてすいません。このくらいはかすり傷です」
「では、頼久」
「はい。私は、かのものに一太刀いれられたときに感じたのですが、隙というものがまったくなく、
刀を持つことにためらいがなく、独学とは考えられません。どこかの武家のものの可能性があります。
鬼の首領から命令され攻撃をやめたとき、その人物は、「」と呼ばれていました」
「、か」
「それで頼久、彼女は、は、鬼のような力はあったのですか?」
「---------よく見えていなかったのですが、その人物は鬼の首領に手を引かれていったので、自分の力では」
「そうですか、これで彼女が、鬼ではない確率が高くなりましたね」
「だからといって、神子様に害をなすものは何人たりとも容赦しません」
「ねぇ」
そういっていたのが昨日のこと。美しい月と桜に誘われ牛車をおり一人でぶらついていれば、そこには先約がいたようで。
友雅は、扇で笑みを隠しながらその影に近づいた。
「これも運命かな」
「誰だ君」
「おやおや、忘れられてしまうとは、悲しいねぇ」
「知らないものは知らないのだからしょうがない」
「私は、橘 友雅だよ。君は?」
「だ」
予想外にあっさりと答えたことに驚いた。罠なのかそれとも素なのか。
答えが分からないまま友雅はさっきから一歩も動かずそこにいる少女を見た。
「君は何をしているんだい」
「見て分からないのか」
そこで友雅はまじまじとを眺めた。あかね殿と変わらない年くらいの少女がそこにはいた。
流したままの黒髪が闇にとけ風に揺られている。顔ははっきりと分からない。
少女だとここまで見なければ分からなかったのは、彼女が鬼の一味だということの緊張感だけではなかった。
彼女のもつ雰囲気がそれとは違ったものだからだろう。
「妬けるね。私よりもサクラに気をとられるなんて」
彼女はこちらをみず見事に咲き乱れている桜を凝視していた。
「君よりもサクラのほうが価値がある」
「今ここで私に捕まえられるとか考えないのかい」
サワと風がないた。
「昔、どこぞの話に、サクラが綺麗なのは樹の下に死体があるからだと書いてあった」
「・・・・・・・」
「なんとも夢がない話だ。サクラは人なんぞいなくても綺麗に咲き乱れて散るのに」
「君は」
「あのサクラは、一等綺麗だった。もう見れないとは残念だ」
「歪だからこそ美しい、なかなか風流だね」
「けど、あのサクラは人がいなければ生み出されなかったなんとも滑稽で面白い話だと思わないか」
「君は鬼の一族なのかい?」
「違う」
「なぜ彼らにつく」
「あいつらは、鬼ではない。鬼になったんだ。変わらないものだな。どこの世界でも」
「理由はそれかい?」
「哀しいのも愛しいのもすべて同等なんて世界ありはしない。私が望んだのは、あの人の幸せだけだ」
彼女がいなくなって一人友雅は桜を見ていた。
彼女がじっと見続けていた桜を。
最後まで一度もこちらを見ることはなかった。
瞳を捕らえることも捕らわれることもなく、それが最初の認識。
2008.3.13