私の目を見ないで下さい
私の声を聞かないで下さい
私の手を触らないで下さい


君はとても綺麗すぎる






アクラムがいつも通り、穢れというものを行い、私は護衛ということで傍にいる。
毎回思うが彼のその姿は、何もないところにぶつぶつと何か言っている不審者の姿だ。
何もすることがない私は、暇つぶしに怨霊、もとい元怨霊と戯れているときに
彼はいきなりなんの前ぶりもなく言った。


「龍神の神子を見せよう」


別段見なくてもよかった。
術というものが一切出来ない私に何かが出来るわけでもない。
けど、


「分かった」


そういったのは、
蘭と対極でありながら、同じ人間への、少しばかりの興味。




だからといって、そのまま突進していくとは思わなかった。
・・・・・・もしかして彼は馬鹿なのかもしれない。
猪突猛進の馬鹿。

二つをくっつけたら救いようがなくなった。


「言っとくが、最初から計画のうちだ」


なかなか鋭い。

ふと、顔を上げれば見事な桜の木。
生命が宿る年月を経ているように見える。
風に吹かれて花びらがハラハラと散る。
赤染めの桜。
紅く紅く、歪なまでに紅いそれをただ純粋に美しいと感じた。


蘭も一緒に連れてきたかった。


「ここに龍神の神子が来る」


蘭の髪の毛に映えるな。彼女の色は鳥羽色、綺麗な黒。
痛んでもないしサラサラの髪。
・・・・・・なぜ私は今こいつと共にしているんだろう。
蘭に会いたい。


「その前に陰陽師がいるが」


アクラムの髪は、金色だな。前、触ってみたけどなかなか良かった。


「僧たちを襲う」


金色も映えるが、やはり黒だろう。
全てを包み込む色。


「・・・・・・聞いてるか?」


「ああ、聞いていた。僧を殺せばいいんだろう?」


アクラムは、手を額に当てた。
何かに思案するように、何かを耐えるように。
その姿で、私は悟った。


目に桜でも入ったんだろうか。仮面外せばいいのに、阿呆だな。
猪突猛進の阿呆馬鹿仮面。


蜘蛛の糸すら、垂らしてもらえまい。



「違う。僧は怨霊に襲わせる。お前は私を守っていればいい」


私がやったほうが手っ取り早い。ああ。だからこそなのかもしれない。
私は早すぎる。彼が僧を襲うことはただ殺すということではない。
龍神の神子に、なにかしら関係があるんだろう。


「分かった」









「キャァァァァ」


女特有の叫び声が響く。
ふと、思うのだがキャァァと声が出るのは凄いと思う。
私なら、・・・・・・考え付かない。
考えてみれば今までの人生の中で叫び声をあげるほど驚いたことってないな。
ああ、煩わしい。



「どうして?」



そんなの、君を手に入れるためでしょう?




桜の場所へ戻った。アクラムと私。
一応の用心のために私がついている。
だから姿を現す必要もない。
今彼女を守っている男たちがアクラムに勝てるはずはない。

それにしても、アクラム。悪役似合うな。
カンペキ悪役。

あんな台詞恥ずかしくていえないね。


武士っぽい人がアクラムに刀を向けた。
避けることは分かっていた。けど、それじゃ私の意味がない。



二本の短剣をクロスし、刀を受け止める。
刀と刀の一瞬の交わりあい。なかなか重い力を引いて押し返す。
瞳と瞳が混じわりあう。
黒と青。
目を大きく見開いている青年。

その隙は少しだけれど、私にとっては、長すぎるくらいの一瞬。
小回りが利く短剣を最小の動きで振り上げた。



肉が、鋼が、どっちが先にめり込んだのか分からなくなるまで
紅い血を撒き散らしてよ。

この桜には打ってつけだろう?

肉を切る感触が伝わる。彼の肩から血が舞う。



もっと。もっと。

「止めろ。



その声に反応し、黙って短剣を収めた。
二本の短剣は何事もなかったかのように元の場所へと戻っている。
興味はすでに失った。護衛対称に止めろ。と言われてしまえば何もしない。
私の血が、させる本能。

私が出来ることはただアクラムの元へ戻るだけ。
そして一刻も早く蘭に会うことだけ。



「どうして、」


龍神の神子が、呟く。
彼女の周りの空気が変わった。
白に埋められていく感覚。


ナンダコレハ。ナンナンダ。


桜が白くなっていく。


「ちっ、引くぞ」


アクラムが私を引っ張った。
瞬間、彼女の瞳と目が合う。


どうして?
知らないよ。
分かっていても、君には一生理解は出来ない。











紅い桜が、醜いと言う。恐ろしいと、狂っていると
それが正解。それが一般的な正解。
皆がみな同じ答えを口にしたとしても。
私は


「綺麗だったのにな」



独り言。なんの意味さえないその言葉は
少し嬉しそうに顔を綻ばせた彼によって意味を持った。


白い桜の花びらが、彼の服からハラリと落ちた。

白い。
そう、まさに彼女は白だ。
私の何かを壊すほど、蘭に顔をあわすことが出来なくなるほど。

彼女は白すぎた。
何ものも埋めてしまう。

白。私のキライな色。







2007/10/21