暗闇の洞窟内に炎だけが動いていた。
前からこの場所に住んでいたかのようにはそこになじんだ。
は、己の手を見つめた。

よほど動揺していたのかアクラムに触られたことに嫌悪することもなかった。


アクラム  

鬼と呼ばれるもの。

金の髪と青い瞳を持つ美しい鬼。

彼の言ったことを思い出した。
龍神の神子を手に入れれば・・・・・。


全て信用したわけではない。
彼らにも鬼と呼ばれるほどの業はある。
が、蘭をかくまっていてくれた。
それだけは、真実だ。


蘭がここにいる。生きている。
それだけで、にとって十分だった。


からっぽだった魂がようやく動き始めた。


そして、部屋から出ると、人が増えていた。


。紹介しよう。私の仲間だ。」


さあ、踊ろう。
君の作った舞台の上で。哀れに滑稽に舞台が幕をおろすまで。






「まさか、こんなことが出来ないなんて。」

は、じっとシリンを見つめた。
シリンの作っている料理は卵焼きのはずだが、なにか黒い物が鍋の中で
悲しく泣いている。

「う、うるさい。しょうがないじゃないの。いつもはイクティダールがやってくれてたんだから。」


「・・・・・君やらなくて正解な気がするよ。」


「いいのよ。女は美しくさえあれば!!!」


「おい。。これでいいのか?」


「ああ。親分のほうが全然仕えますね。」


「っ、、見てなさい。私にかかればこの醜いじゃがいもが美しく華麗な変貌をさせることなんて朝飯前よ」


「ありがとう本当に言葉では言い尽くせないほど楽になった。」


「いや、蘭に不都合な思いさせたくないからな。」


は鬼一族に馴染んでいた。
最初は反抗的だったシリンやセフルは、今はを受け入れていた。

シリンにはアクラムをいかに落とすかの方法。
女性らしくあれを教え美容法から何まで知っている
しかも料理がうまいことをアクラムに褒められたためコツコツ料理を教わっている。

セフルは、

「じゃ君のほうが先輩か。親分だね。」という言葉にやられた。

はただマイペースに生きているだけ、適応能力が高いこともあるが、
恐れも、畏怖も何もなくただ同じ人間と扱っているだけ。
それも彼らに好かれ要因となった。


「どうよ。見なさい、!!完璧でしょ?」


「凄いじゃないか。シリン。キレイなじゃがいもが出来ているよ。
今日はそれで肉じゃがにしようか。」


。オレ前食べた。プリンとかも欲しい。」


「蜂蜜はまだあるみたいだな。いいぞ。プリンもつけよう。」


「ずるいわよ。私も欲しいわ。。」


「大丈夫だ。ちゃんと人数分作れる。」


イクティダールは家族のような姿をほのぼのと眺めた。
が来てからというものご飯はうまいし、あの二人を手なずけ
お館さまですらご飯時には帰ってくる。
本当にありがとう。
出来ればこのまま一緒にいてお館さまに復讐を忘れてさせて欲しい。

不可能だと諦めていた望みがが来てから叶うんじゃないかと思う自分がいる。


食事が終わり皆それぞれに散らばっていった。
普段ならば、シリンがに美容方を聞いたり、セフルがと今日の出来事や出掛けたり
ランの髪の毛やら何やらを手入れしているがいたりしていたが、
皆一様に仕事があるらしくその場には私ととお館様がいた。


。」


「なんだアクラム。」


「暇か?」


「私を使えばいいといったのにお前は使わないな。」


「・・・・・・分かっているだろうが、お前に出来ることがないからではないか。」


「あんなのが出来るはずないだろう。何で皆出来るんだ?」


そう、会話の通りは、肉体派だ。
そっちのほうは誰よりも長けているのに・・・・・・その逆術などがまったく出来ない。
ようやく出来るようになったことといえば
怨霊を懐かせるというもので、言うことは聞かないが、遊んでとせがむ。
しかも遊んでいるうちに怨霊は怨霊じゃなくなってしまう。
言うことを聞くのは怨霊じゃなくなった奴らぐらい。
が、に傷つかない限り動かない。人間に興味の欠片もなく連に対しての執着心は強い。
でそいつらにやらすより自分が動いたほうが早いと考える人間だ。

術は出来ない。怨霊は操れない。

出来ることは暗殺だけ。
時々思うんだが、天皇暗殺したほうが手っ取り早いと思うが、
御館様の計画にはないようだ。
御館様の傍にいて守るのが一番いいんではないか?
そう考えていると


。今日からお前は私の傍にいろ。」


お館さまそれだけだとなんだか告白みたいです。
よかった。シリンが今ここにいなくて。


イクティダールは、が来てからよくなってきた胃を押さえた。








2007・8・13