そこは森だった。

深く暗い森の中。


私は出会った。

金の瞳と髪をもつ京での異端者『鬼』に。


私はその日も蘭を求め京中歩き回った。
少し少し情報を集めていくうちに、鬼という異端者の話を聞いた。

正直。
くだらなかった。

どの世界でも人は数少ない稀有な能力を持ったものを排除しようとする。
そして、復讐された。
ただそれだけだ。

本当にくだらない。
私は住処へと帰った。

暗く怨霊が出ると噂される森の洞窟。

ここならば人が来ないし、何よりも荒らされていないおかげで食料がたくさんあった。
なかなかいい住み心地だ。

時々人が来るとしても、陰陽師と呼ばれるものぐらい。
奴らは私に気づかない。

前あった奴は特殊で力もあったのでばれたが、何を言うこともなく時々ここを訪れに来るだけ。

私は奴が訪れるとただぼーっと眺めるくらいしか出来なかった。
奴らの分野は私とは異なる。
奴らにとっては普通な技も私にとっては面白い技だった。

それだけが、私の京での生活のうえで娯楽となっていた。

けど。
蘭のことを忘れる日は来ない。


こっちに来て、半年が経とうとした。


そして、私の物語は動き出す。
一人の『鬼』によって。


梅雨に入った。
その日も、雨が降っていた。
ただしとしとと木々に雨が当たりそれぞれこのなる音を聞きながら、洞窟の中で武器を磨いていた。


ピチョン。サァァァー。パシャァン。

雨の音に混じり誰か人が倒れた音がした。

暇だった。陰陽師も来ないし何もなく蘭を探す情報すら探せにいけなくて。
ただの興味本位。
そして戦いもない平和な京が私の張っていた糸を緩ませたのもあった。

そこに倒れていたのは、金の長い髪を結いもせず雨に流されるかのように流れ、
森の深い緑、空の暗い雲、そしてその人物が流していた赤い血。

すべてが見事に調和されていて、まるで元々そうであったかのようにそれは存在した。


は、助けた。

金の髪を持つ青年を。

それは一重にこの地が穢れるとの唯一の楽しみが見れなくなる。それだけだった。


****

金の長い髪を持つ男は目を覚ました。

「ここは、どこだ?」

男・アクラムは倒れる前のことを思い出した。
不覚にも陰陽師に不意をつかれ怪我をしたはず。
アクラムの胸元には白い包帯が巻かれ傷の手当も完璧だった。
一体誰が。それに答えるかのように少女は現れた。

「起きたか。」
アクラムは少女を見た。
ゆったりとしたウエーブのかかった長い黒髪。あどけなさが残る整った顔。
そして、深闇の黒い大きな瞳。

その瞳は、触れみたくなるが、入ってしまえば迷うほど深いものだった。

アクラムは少し見惚れたが、直ぐに警戒心を高めた。

「小娘。なぜ私を助けた!私は鬼だぞ。」

「・・・・あそこに倒れられると迷惑だから。」
アクラムは少女の答えにあっけに取られた。

理由がただ邪魔だっただと。


「何が目的だ。本当のことを喋れ。」

「目的?君に?初対面なのに用があるわけない。」

アクラムは少女の的の外れた答えばかりに
怒りよりももう呆れるに近くため息を吐いた。

「・・・・私は鬼だ。怖くないのか?」

「鬼は口に牙がある。そして頭には角が生えて、なによりトラ柄のパンツはいてるのか?」

「もういい。喋るな。私は京を滅ぼそうとしている。」

「すればいい。勝手に。」

「何?」

「だからすればいい。私は興味がない。」

「なぜだ。人事ではないだろう?」

「時は流れ行くままそって動いている。君が滅ぼすことが未来であれば私たちは沿うだけ。」

「・・・・名は何と言う?」

「いらないだろ。が、また会えれば縁だ。そのとき教えよう。迎えが来ているぞ。」

アクラムは仲間の気を感じた。
なぜだか、まだここに居たいと思ったがすぐに思いを打ち消し、
近くにあったマントを羽織り、

「・・・・世話になった。」
そういうと洞窟から出て行った。



「・・・見つけた。」
その呟きは誰にも聞かれることはなかった。
どちらが呟いたかさえ分からない。
ただ、雨の音が森の中で静かに鳴り響いているだけ。












2007・3・22