【胡蝶蘭〜23・月とキス裏編・重衡(銀)】


とても綺麗な人を見た。私を惑わせた十六夜の君。
貴方に会いたいと思っていたのに。

最後の時間、私がめぐった相手はまったく違う人物で、
それなのにどこか納得している自分がいた。

前あったときよりも幾分痩せて、また一つ大人になった彼女は、
やはり十六夜の君よりも美しくはなかった。
それはそのはず、人の顔を占める大半が隠されている。
黒い皮に、兄上の趣向で飾られた銀細工の雪の模様。
私はそれが嫌いだった。
彼女は、決して醜くないどちらかと言うと可愛らしい外見をしているが、
中身は鬼と呼ばれるほどのもので、女と見て近づくものはいない。
そう呼ばれることは私にとって好ましかった。


言いたいことはたくさんあったけれど、泣いて私の全てを泣いて
忘れてしまうのかと思うと胸が苦しくなるから、
いたずらをする。



愛してますよ。
美しい人。


私を忘れないように。




分かっていたんです。本当は、誰も貴方を必要としなくなればいいとか、
見向きもしなければいいとか、そんなことを思ったのは、

貴方のすべてが欲しかった。私だけを見てくれれば。

嫉妬させようとして違う女性を言ったけど、貴方が他の人を言うのは許せなかった。


兄上よりも先に貴方に会えたなら。
貴方の片目が自分のものという証も自分のものであったら、
素直に、貴方を綺麗だといって片目に口づけられたのに。




愛してしますよ。
愛しい人。


生きてなんていいたくなかった、共に堕ちて欲しかった。