「というわけで呪われたんだけど、これ治る?それとこれって折れていいもの?」
「ダメだな」
「・・・・・・だよね」
ルシがそれは複雑そうな顔をして槍を見ていた。
結局のところあの女がいった助かる方法なぞ分からなかったわけで
なんて腹立たしい。
と、思っていたものの害がなかったため放っておいた。
ちょうど良かったのもある。
超絶美少女のルシを狙う輩も多いし、あの後平家から追われていたから。
私は、相手を死なない程度に槍を使う方法を覚えたときだった。
ある日、それは突然起こった。
喉が乾いて仕方がなくなった、水を一気飲みをしても、のどをさすっても収まることが無かった。
ルシが心配そうに覗き込んでくるのに私はルシの細くて白い喉から血が流れればなんて、
狂気を抱いていて、そんな考えを抱いた自分が怖くてルシの手を振り切って走った。
息が上がって、頭を冷やす。
手には二本の槍もとい、一本だった槍が握られていて、
あの時言われた言葉を思い出す。
『人を殺しつづけなければいけない。じゃなければ、命を奪われる。』
さぁと血の気が引いて、地面に槍をおもいっきり叩きつけてみた。
あの時は簡単に壊れたのに踏んでも蹴っても殴っても傷すらつかない。
「」
いつの間にかルシが木に寄りかかり私を見ていた。
自分の行動の異常さに気がついたけれど、そんなことどうでも良かった。
「ルシ、私はどうなっちゃうんだろう。人を殺しても後悔も泣きもしない人間じゃなくなちゃうのかな。
それはとても怖い、ね」
「すまない、。ルシが・・・・・・」
「謝るなんてらしくないよ。ルシ。ここは甘いこというな。でしょう」
「聞け、ルシは」
「ルシのせいじゃない。この槍はこの世界で生きていくのに必要なものだって分かってるし、
十分役に立ってる、弱音を吐いたってどうしようもない。
・・・・・・あーあ、こんな深刻に悩んだからお腹すいたよ。
ルシよくここまで歩いてこれたね。えらいぞ。さって今日はここに野宿かな?」
私は笑顔で、ルシの悲しそうで泣きそうで何かいいたそうにしている顔を無視した。
自分のことで精一杯だった。前を向いて歩くしかないって思ってた。
夜寝ているルシをみて自分の手をみればカタカタと震えていて、
今にも誰かを殺したくてウズウズしている。
まだ、吸血鬼もこんな気持ちだったかなと思えるほどは余裕があるようだ。
手を木に打ちつけて痛みを代償に危険思想を薄めさせるどうやら効果があったようで、
ルシを襲うよりも眠いという気持ちが勝ちはじめてきた。
朝起きればルシが先に起きていた。珍しく朝食が用意されていた。
「どうしたんだ。今日は」
「どうかしたのはお前のほうぞ。今は朝ではなく昼ぞ、こんなに寝るとは疲れがたまっとるのか」
「はっははははは、まぁね」
「大丈夫か?。お前が大丈夫でないと心配だ」
珍しく可愛いことをいうなと思えば
「ルシの足がなくなるのはとても辛いからな」
一言が多かった。
でも、それがルシらしくて自分が弱っている姿が馬鹿らしくなって笑えば、
急にしたものだからルシが頭の心配をし始めた。
そういえば、こんなに笑ったのはこの世界に来て初めてかもしれない。
なんだか全てがどうでもよくて、悪いことが全部嘘だと思えるほど気持ちが浮上する。
笑うのを止めずに笑い続けていれば、ルシも何か気が抜けたように笑い始めた。
二人で良かった。一人だったらとっくに発狂していた。
いいや、二人でもダメだった、ルシで良かった。
じぁ、進もうか。これからを考えようか。呪いをとく方法と鬼にあいにいこうか。
二人ならきっと出来る。
ルシと私なら出来る。
そう思っていたのに。
「なんで、どうしてよ」
神様なんてこの世界にいない。いるんなら、神様なんていらない。
ルシが笑っていいました、とても綺麗な笑顔で見たい場所があると
私は笑いました。目が見えないのに見たい場所があるの?と
ルシは少しすねて、感じれれば見るのといっしょだと言い放ちました。
ルシが先頭にたって私はその後ろをついていくだけでした。
ルシの白くて細い体は最初の頃よりもやつれたよう見えます。
その身体を私は哀しい気持ちでみながらも殺したいという衝動を一生懸命に隠していました。
手は叩き続けていたせいかボロボロで傷だらけでした。
でも、ルシがいない世界はそれよりもつらいと分かっていたから我慢できました。
歩いている途中でルシが今までのことを振りかえるように聞きました。
”どうして助けた?”
”ん?あの時のことか。そういや途中まで逃げる気満々だったんだよ。
だって私死にたがりやは大嫌いなんだ。でも、ルシは特別だし”
”特別って”
”あーだから、その分かれよ。ルシは友達ってか親友だろう?”
”友達?ルシがか?フ、フフフ予想外の言葉ぞ。お前は相変わらず変だ”
”この、人が恥を忍んでいったのに”
”だが、悪くない。うん。ルシとは友ぞ。なんだかとても楽しいな。こんなのは初めてだ”
そう言って極上の笑顔を私に向けて
”ルシがこの景色をと共にみたかったのはそういうことなんだな”
ルシの前に広がる世界をなんといっていいのか分かりませんでした。
天国といわれたら信じることができるほど光が満ち風の音鳥の音緑の匂い花の匂い。
すべてが幸せな光景でした。いつのまにか私とルシは手をつないでいて
声をあげて二人で泣きました。
幸せは続くもので不幸が長かったからでしょうか。ルシと私は豊かな家に拾われました。
ルシの博識と美しさ、私の力仕事の有能さを認めてもらい
小さい納屋を一つ借りることが出来ました。
住んでも構わないといわれました。
少しならば急ぐ足を止めてもいいと思ったんです。
私の人を殺したいという衝動も安定していました。
それが、間違いでした。
私はつくづく甘い。魔の手は着実と迫っていたというのに。
ある日、私が家に帰るとルシのお帰りという声の代わりに血の匂いがしました。
そんな、馬鹿なと思って家の中に入るとルシは私の槍で死んでいました。
周りには、無数の足跡があって、
とても、とても安らかな顔をしているから寝ているんじゃないかと思うほどで、
でも折れた方の槍がルシの血を啜って黒を白に染め上げ新しい槍を作り上げていました。
どうにか止めようとして槍を抜こうとしても動きません。
泣き叫びました。
でもどうしようもなかったんです。最後私はルシが何か言ったのを聞きました。
”これで呪いはとけた”と。
そう言えば、槍が抜けました。真っ白な槍で真っ黒な槍と合わせたかのような立派な造りでした。
でも、その美しさなんてどうでもよくて、
どうして、どうしてと狂ったかのようにルシを抱きしめました。
軽くなったルシからはルシ以外の匂いがしました。
見慣れない跡もありました。ルシも辛かったんです。私が隠していたようにルシも隠していました。
声が響く。私の呪いは解けているけれど、そんなことは関係ない。
”殺しちゃう?殺しちゃう?殺しちゃう?”
-------------------いいよ。殺しちゃおう。
まずは、
「お前が城を燃やし城主を殺した犯人だな。こい、平家を敵に回して簡単に死ねると思うなよ」
ルシをここまで追い詰めさせた平家の残党から、それから後ろにいるルシを売ったこの町の人々から。
神様なんていらない。必要だったのは、私の名前を呼んでくれた親友だけ。
2009・2・27