ルシは何でもできた。思い描けばなんでもその通りなった。
ルシは神で、神がルシ。それが当たり前だった世界のなかで
ルシがわからない不可解な人物が現れた。

名前を聞かれて黙っている姿を見て死にたがりやだと思った。
けど本当は誰よりも生きることに貪欲だった。
なにかいえばすぐ文句をいった。誰も表だけではルシに素直に従うのに。
そいつだけは口と心の中が同じだった。

心をよんでも無意味で大体口か顔に出ている。
不思議なやつだった。


名前を聞いてだと答えたときにルシの世界は変わった。



今目の前でルシを巫女でなくしたやつが永遠の眠りについている。
ルシはこいつが嫌いでも好きでもなかった。征服欲の強い男だと思うだけだった
ルシの純潔を奪って神を手に入れたと思うだけでは飽きたらずルシを舞えなくさせた。
どこにもいくなとそう言われた。
足の腱を切られたときは痛かったけれどルシはどうでも良かった。
どのみちここに居続けるのに足なんてなくても良かった。
ルシの世界はこの場所で終わるのだと、天命であるとそう思っていた。


けど、
と一緒にいるときは楽しくて自由に歩けたならば、目が見えたならばなんて、
一度も願ったことがないことを願った。
ルシは人を汚いと思っていたがは綺麗で自分が汚れているように思えた。
憎く思うよりも憧れていた。
にはルシが汚いなんて思われたくなくて、離れさせたでも焦がれいた。
が傍にいないのはとても退屈でつまらなく前と同じだけど全然違う。
を知ってしまったからルシは。
ひとつも自由じゃなかった、不幸だったなんて気づいてしまった。
がいなくなる日、ルシもいなくなろうと思った。
が死んだら、ルシも死ぬ。
がここからいなくなったら、ルシもここからいなくなる。

どのみち、ルシの神力も落ちている。この男に抱かれてから
心が見えなくなって、未来も霞みはじめた。

ルシは神じゃない。神はルシじゃない。


生きている意味がルシにない。




燭台の火を落としたら、木が燃える匂いと物が燃える匂い。
ルシも燃える。燃えたら綺麗にみたいになれればと、そう願っていたのに。


「ルシー!!バカが、おい!いるんだろう。生きたきゃ叫べよ!!まだ生きてるだろう」


の声がした。最後の最後まではルシを馬鹿呼ばわりした。
けれど必死にこちらに向かってくるのが分かった。
ルシはにひどいことをいったのに、はわざわざ火のなかに飛び込んでくる。


「バカもの、ルシをバカ呼ばわりなぞっ、ゆる、さんぞ。











今までにない大声を出したかも知れない。





目を覚ませば、懐かしい香りがした。の匂い。
それに何かが燃えた匂いと血の匂いが組み合わされていて不快な匂いだったけれど
とても居心地が良かった。
同じ音を刻んで心臓の音、うつらとした瞳をまた閉じた。



それから、とルシは小屋にたどり着いたんだろう。起きたら床に眠っていた。

「お、起きたか。どう?自殺失敗、悔しい?」

「腹減った、ルシにそれをよこせ」

「・・・・・・本当に目見えてないよね」

毎度同じことをいいながらルシには食べ物を渡した。
食べ物はとてもじゃないけれど美味しいなんて言えず固くて少ししか味がないものだったけれど

「ん?なんだルシ泣いてるの?」



神様なんてルシには言えない。だってルシは神様だから、

ああ、でも神様

ルシをとあわせてくれてありがとう。













2009・2・26