「私にはルシ様のような力はないけれど、一つだけ言えることがあるわ。あなたは死ぬ」


呪いの言葉を初対面の人に言われた。
そのときの女の眼力が半端なくて泣きそうになったが、どうにか耐えた。



だからついてきなさい、と女はいうと私に背を向けてどこかへ歩き始めた。
ハッキリいえばそこで逃げようかと思った。
だって自分のことを死ぬほど嫌っている人物についていくのはあまりにも無謀で、
騙されてここにつれてこられた私は少し人間不信だ。
とはいえ、
彼女の真摯な叫び。もとい死亡通知をのうのうと無視できるわけもなかった。


いいや、本当は心のどっかで思っていたんだ。
私はこの世界で生きて抜くことが難しいことを。


自分の足元を見た。真っ暗で何も見えない。よくよく目をこらせばブーツというこの世界で
異質なものがちょっとずつ現れた。
泣きそうになる程の拒絶を人から受けて、自分もこの世界を拒絶していることに気づいた。
生きたいと思うのに、ここで生きたくないと思っていた自分がいた。
元の世界が恋しくて仕方なかった。
私に足りないのは、この世界で生きていくという覚悟。
頬を叩いた。ジンと痛むその感覚に自分が生きているのだと思い知らされた。
決してマゾなわけではない。
そうだ。私は生きるんだ。
地面なんて向いてられない太陽の方向を向いて生きてくんだ。
顔をあげて前を向いてしっかりと歩き出せ!


-----------------そうすれば


女の姿は米粒くらいに小さくなっていた。




重々しく神々が祀られ場所。初めて入った場所にどきどきと落ち着かない様子の私を
無視して女は目の前にあるなんかの神像を睨みつけながら話した。

「なぜ、ルシ様が逃げなかったのか戦わなかったのかと聞いたわね。
それはルシ様が巫女だからよ。一重に巫女といっても色々あるの。
ルシ様はね、成り代わりの巫女なのよ」

「・・・・・・なにそれ」

「そのままの意味よ。ルシ様は神様。神様はルシ様。半分こ。
ここの神様はね、稲荷なんかじゃないの、誰も知らない呪われた戦いの神様。
ルシ様を手に入れればその神様さえも手に入ると思った馬鹿な男のせいで
こんな事がおこった。だれが!あんな男にあげるものですか」


女は神を象った像の一部を押した。
ガコンと音がすると像は後ろに下がり床が上がって一つの黒い槍が出てきた。
全身真っ黒なそれはとても綺麗で、一瞬にして魅入られたのに、心が受け入れを拒否をする。
おかしい、体と心がちぐはぐだ。

「こんなものいらない。あなたにあげる」

女がそんなことを言っていた。
魅惑の言葉だったが頭の中で警報が最大音量で鳴っている。
力がほしい、絶対的な力が、そうすれば私は簡単にこの世界を生きられる。
手が槍に向かって伸びていく。
 




私は、伸ばした手を止めた。誰かに呼ばれた気がして後ろを振り返る。
誰もいないけど確かに呼ばれた。





何度もしつこいくらいに呼ぶ声。
そういえば、彼女の声は小さくても響いた。
そういえば、この世界で私の名前を呼ぶのは彼女だけだった。
何だか必死な声に彼女らしくなくて笑いそうになった、だからかな。
今の自分の姿がとても笑えてる様に思えて伸ばしかけた手を下ろした。
その姿を苛立ったように女が叫ぶ。

「何をしてるの?絶対的な力が手に入るのよ!」

「バカにすんな。力がなくたって生きていける。血反吐吐いてででも生き抜いてやる」

にかっと笑えば、目を見開いて驚いている。ざまみろ。
だけど事態は悪化した。


「何をしている」


刀を持った見張りの兵に見つかった。
兵は槍をみるなり瞳の色を変えて、
何かに取り憑かれてたかのように「あれは俺のだ」と呟き始めた。
その姿がさっきまでの自分の姿だと思うとぞっとして女に文句を言う。

「おまえは、何させたいんだよ。結局!!」

「うるさい。なんてことなの。敵には見つかるし、あなたはとらないしさんざんよ」

「ばっ、おまえあれ見ろよ。どうみても何か取り憑かれてない?ってかさっきの私もああだった?」

「あなたが異常なのよ。普通の人間ならばこいつみたくすぐ発狂して自我を失うのに!!
本当誤算だわ」

「おい、ちょっとなにして」

「あれを敵にとられてなるものですか」

女は槍を抜くと、なぜか私に向かって投げた。つい取ってしまって兵の顔がこっちを向いた。
刀は抜かれており私に振りかぶる。持ち前の運動神経でどうにか避けるもどうしていいのか分からず
とっさに手に持っていた槍で刀を防いだ。

「!操られることなく使えるとはやっぱりあなたは」

「そこ!!そんなのいいから助けろよ。おい」

力でギリギリと押されている。刀に映る自分の顔と正気ではない相手の顔。
やばい。本当にやばい!!

「それをよこせ、俺のものだ」

ガンガンと迫られる力に、自身の力が弱まっていく、

「このっ!」

兵の渾身の一撃が槍を真っ二つにした。
これのどこが、神様の象徴だって?ただのボロい呪われた槍じゃないか。
こんなもの頼ってもどうしようもない。
兵が刀を振り下ろす姿がみえる。
殺されるのか、私は。こんな何もしらない場所で、誰からも覚えられることもなく
誰からも愛されることもなく、誰からも。

いやだ。死にたくない。死にたくないよ。



“願えば叶えてあげる。生きたいのなら願って、そう


------------こんな奴殺しちゃおうよ”












2009・2・22