さんのおかげで知盛が死ななくてすんだし、
彼女との間にあった大きな溝も少し薄くなった気がして嬉しかった。
このあと調停を結んで、円満で終わって、誰も死なないで、
幸せになれるって思ってた。
終わったら、朔と一緒に誰がさんとベストカップルになれるか
お話しようなんてそんなこと考えていた。
幸せな終りしかみえなかった。ようやく時空を超えずにおわれる未来だった。
だから、何が起こったのか理解できなかった。
私は前からくる将臣くんに手を振って、
将臣くんも私の方へ寄ってきて、ざっざざと砂の音が響いた。
あのね。将臣くんさんが味方になってくれたよ。
知盛も生きてるんだよ。
嬉しくて、すぐ報告したくて、砂に足をとられて重いけど、
私は全力疾走した。
終わりに近付いている戦より、波の音のほうがうるさかった。
「神子!!危ない」
「え」
言葉よりも、危ないものはすぐ近くに来ていた。
それがなにが確認する前に、
赤い血が流れた。
「あ」
雨あられとなり降り注ぐ弓の矢は、私に当たることはなかった。
「ど、して」
私が近づく前に、遅れて来た一本の矢がトスと彼女の胸をいった。
それが、最後だったのか、彼女は、がくりと足を崩した。
「さん」
私の言った名前を何人もの人が叫んでいる。
さんは、ごほりと、血を吐き出した。
さん、知盛が、将臣くん、弁慶さんが、リズ先生が
見たこともない顔でこっちに来ているの。
すっと彼女は天に手を伸ばした。
「・・・い」
私は彼女の手をとって、
どうすればいいのか分からないのに、涙だけが勝手にこぼれた。
「な、なに?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。
がんばったよ。なんどもがんばった。
ほんとうにがんばった・・・んだ」
目が霞んでいる彼女は私ではなく誰かに言っていた。
許しをこうさんは、私が知っているさんではなかった。
いつでも綺麗で、強くて、前を真っ直ぐ向いている彼女ではなかった。
私に微笑む彼女は、やわらかで、消えそうだ。
「も・・・う・・・いいよ・・・ね。そっち・・・にいっても・・い・・い・・よね」
「駄目!!いかないで」
私の言葉は、彼女に、通じなかったようだ。
彼女が、ふっと一回大きく息を吸い込むと、
彼女の片目を覆う眼帯がするりとおちて、砂の上に落ちた。
「ああ、やっと・・これ・・・で・・・ルシ・・・父さん」
そういって、さんはすぅっと一本の筋を頬に残して、
瞳を閉じた。
その姿から、許されてしまったこととさんの本質を知った。
呆然としている私の横で、
知盛が、私からさんを奪い、
眠ってしまったさんを起こそうと、名前を叫んだ。
弁慶さんがが傷の具合を見て、顔を真っ青にさせた。
リズ先生は大きな肩を震わせて、顔を手で隠した。
将臣くんは口を開き目を見開いたまま、膝をついて、
四つん這いで?と、震える指でさんを触ろうとするけれど、
知盛が誰にも渡さないとばかりに強く抱きしめていた。
私はさんを見た。彼女の体温はまだ温かいらしい。
知盛が、俺を置いていくのか。と置いていくなと、
彼女の頬に彼女以外の水をこぼした。
でも。
さんの顔は穏やかだ。
私は知ってしまったのだ。彼女の最後に、気づいてしまった。
さんは、本当は誰よりも、死にたがっていたことを。
2011・4・7