全員の武器が下げられた。
ほっと胸をなでおろしたのと同時に、後ろから抱きしめられた。
私にこんなことをする人物を一人しか知らない。
というか、後ろにいたのは一人だけだ。
無言ですごい力で抱きしめられているので、苦しくてしょうがない。
えーっとと、神子がどうしていいのか訴えかけるような視線を頂いたので、
後ろ手で髪を撫でる。細くて柔なかな髪を数回撫でたところで、
駄々っ子は顔をあげた。
「・・・・・・なに?」
「は、俺のだろう?」
知盛の目は、安堵と不安の狭間にいた。
かくれんぼをしていて、最後に見つかった子のような顔。
見つからないように、でも忘れられるのは嫌だと矛盾を抱えながら
膝をかかえて座っている子供だ。
それがさっきまで死のうとしていた奴の眼だろうかと
ぷっと笑いそうになったけれど、
笑えば拗ねることは分かっていたので、こらえて、
ばーかと、デコピンをして、
「これからどこに行こうか?」
そういった。
知盛は、一回目を見開いて、泣きそうな顔を押し隠し、
くっと笑った。
「お前がいるなら、どこへでも」
私は、知盛の元へ戻った時から、選んでいた。
答えを先延ばしにしたのは、あの世界へおいてきてしまった夏の香りのせいだ。
でも、この馬鹿私と一緒じゃなくちゃダメそうだから、
もうちょっと待っていてもらおうと思う。
「えーと、ラブラブなところ悪いんですけど、あの、さんと知盛って、
こ、こ、ここここ恋人なの?」
真っ赤な顔をしている神子に、頭を傾ける。
「え、違う。違う。どう見たって主従関係だよ」
「・・・・・・」
そういうと、一瞬場が静かになり、
ぺっと後ろにいた知盛から引き剥がされ、
似非臭い笑みを浮かべる弁慶に捕まった。
「へーそうなんですか。そうですよね。まぁ、分かってましたけど。
、恋人とか出来たことないでしょう?」
・・・・・・出来たことはないけれども、カチンときた。
「弁慶にはいたの?」
「気になりますか?教えてあげましょうか?」
すっと頬に手を当てられて、何すんだ?こいつと思っていれば、
視界が真っ暗になって、匂いが変わった。この匂いは嗅ぎ覚えがある。
光が見えたと思えば、リズの髪で。
「。お前は隙が多すぎる。なぁなぁに流されないようにしなければ。
男は狼だ。復唱しろ」
「リ、リズ、顔が近いし、怖い」
いきなりなんなんだと思うけれど、肩を掴んで真剣な顔をしている。
一応、復唱した。
言ったら満足したらしい、私はなにがなんだか分からないけれど、
神子がすすと、近くに寄ってきて、瞳を輝かせた。
「ねぇねぇ、さん。本当に、恋人とかいないの?」
「はっ?なんで戦場でそんな話」
女の子はいつでもその手の話が好きだ。
私の友人のヤンキーな彼女も、恋話が大好きだった。
ドロドロした恋愛経験のくせに、純愛ものの小説をしこたま買って、
よく泣いている姿を横目でみたものだ。
「だって、気になるんだもん。みんなも知りたがってるよ」
ねぇ。と後ろを振り返る。
弁慶がにこにこと笑い、リズは、見ているだけで、知盛はあくびをしている。
どうみても知りたがられてはいないと思うものの、
神子に言われて、考えてみる。
・・・・・私、凄い人生送ってんな。
ずいっと顔を近づけて、答えをせがむ神子に、苦笑が出る。
「恋人ねぇ・・・・・なんか、ピンと来ないんだ。
ここにきてから、自分で精一杯だったからなぁ」
「じゃぁ、誰が一番なの?将臣くん?」
なんでそんなピンポイントに責めるのだろう。
将臣ねぇーと、私が、考えている横で、
ヒノエが、愉快そうに知盛にからんでいた。
「あんだけ近くにいたのに眼中無いとか、可哀想だねあんた」
「あれは、俺のそばにいるといった。
なーに、今からじわじわと落とせばいいだけの話だ。
ククク楽しみだ」
と、言ってのほうへ近づく知盛に、
ヒノエはぽかんと口を開けた。
「ポジティブだよね。平家って基本」
2011・4・7