部屋に帰ると、知盛が部屋の隅の方にいて、背中を壁につけて
顔を伏せていた。暗い部屋に、灯りをともす。
「なにかあると、丸く寝る癖をやめたほうがいい」
「・・・・・・なにしにきた」
「馬鹿を助けに来た。ほら、もうご飯の時間だ。行こう」
「・・・今日は、なんだ」
「焼き魚じゃないかな?」
たわいのないこと言って、私たちの間に何事もないように、
日々が過ぎ去っていった。
とうとう最後の決戦になった。
将臣はあれから、何かをいいたそうな視線をよこすけれど、
平家のことで忙しいのだろう。
「。終わったら全部聞くからな。逃げるなよ」
と、ずるずる部下に引きずられながら言っていた。
私は全てに苦笑して、平家の廊下から見える景色を一人で見ていた。
調和された美しい木々の緑の色。
生き物の気配、素晴らしい花の色。
計算された岩の配置に、水のゆらゆら揺らめいている。
それらを全部目に焼き付けておくかのようにじっと見ていると、
「」
「なに?」
最初から気配で誰が来てたかは分かっていた。
けど、途中で一緒になって知盛が、この景色を見ているのは誤算だった。
いや、知盛だって平家だ。どこか思うところがあるのかもしれない。
風が一陣吹いた。
「将臣は、この戦いでどこか知らぬ土地で皆で暮らすことを望んでいる」
「そう。将臣らしい選択だ」
「平家は、終わる。いや、もともと終わっていた」
「形あるもの全て消えるよ。私からすれば、消えるはずの時間が留められただけだ」
「・・・お前はどうするんだ」
「どうするって」
「すべての戦いが終わっても、お前は戦い続けるのか?」
「ちょっと、知盛みたいな戦うことが大好き人間にしないでくれる?
もちろん、戦いとは関係の無いところに行きますとも」
「それは、どこだ?」
その答えに沈黙する。それから、苦笑。
「それ、似たようなこと将臣にも言われた。答えは私も分からない。
だけど、今はまだ戦ってないから、終わってから考えるよ」
知盛は、これ以上聞いても答えないのを分かったのだろう。
それ以上追求せずに、そうかと言って背を向けたままの私に背を向け、
自室へと帰っていった。
平家の美しい庭は素晴らしい。感受性というものが乏しい自分にも分かる。
だけど、所詮、人の手のもの。自然の美しさに敵わない。
人の手によって作られた美に感動する一方、私の最高は、あの場所でしかなくて、
変わらない。ルキと一緒に行ったあの場所は今はどうなっているだろう?
そんなことを考えながら、彼等の質問を反芻する。
「私の帰る場所」
池が近かったから、自分の顔が写った。
それが、その質問の答えの全てだった。
2011・3・22