風が吹いて、目をつぶれば、いつも誰かが傍にいてくれるような気がしていた。
それが誰かはわからないけど、
誰かだったらいいななんて夢見てる。


「おい、知盛。はどうした?」

「・・・・・・知るか」

そういって、酒をあおって飲んでいる知盛の態度が気に食わなくて、

「知らないは、ねぇーだろうが」

と、首元を掴んで色々いようと思った言葉は、知盛の顔を見て失せた。
俺は、ぴしゃんと襖をしめて自分の部屋に帰り、次の日にが帰らければ、
自分で探そうと、早めに布団の中に身を沈めた。




小さな小高い丘の上で、海を眺めた。
大きくて青い。空と同化している風景は、綺麗だけど、味気なかった。
青。青。青なんて、嫌になる。
もっと違う色があれば、なんて思っていると、黄色が現れた。
彼は、私の後ろに立っている。
音もなく現れることのできる彼の技はとても羨ましい。
草むらの上で大になって寝ころんでいる私に、ふわりとマントをかけてくれた。

「その恰好は、夏でも風をひく」

潮風がきついから、なんて。本当にあのときのまま変わらない
そんなリズに笑みがこぼれた。
私が笑っている間に、リズは私の横に座った。
鬼なんて言葉似合わないほど穏やかなまなざしのリズの姿は、
半分になった視界には痛すぎた。

「リズは帰らなかった理由を聞かないの?」

「お前がしゃべりたくないなら」

それは、ずるい解答だ。
空を見ても青、横を見ても青。
その目の色を変えろというわけでないけど、一緒の色。
彼らの色は、その下で何をしていても変わることがないから、時々無性に傷つけたくなる。

「ねぇ、リズ。リズの大好きな人は、あの子だよね?」

「ああ」

「そう。じゃぁ、私の大好きな人覚えてる?
とっても綺麗で、心も体も全部綺麗だけど、
どうしようもない馬鹿で、わがままな奴」

「・・・・・・

言葉に力があれば、今私は、口を閉ざしていただろう。
だから本当に、言葉にそんな力がなくてよかった。

「私ね、大好きな人をリズに知ってもらいたいかった。
だけど、リズの大好きな人のこと知りたくなかった。
私を見てほしかった。だから、リズから離れた。
私を見てほしい。だけど、私は見ない。
今も昔と変わらない。理不尽で出来てるの私。
そんな、私が、この世界で自分以上を見つけられた。
自分以上に大切で、なにがなんでも幸せになってほしい人。
そんな出会い一生に一回あるかないかの奇跡みたいなものだよね」

リズは黙っていた。

「私みたいになっちゃ駄目だよ」

布越しだけど、息を吸い込む音が聞こえた。
空の色をこれ以上見たくなくて、目をつむっているから、
いつも以上に耳が敏感だ。

「リズは大切にしなよ」

懐から取り出した彼女の遺品の一つの赤いお守り。
彼女と作った人を思い出して、自然と眉毛が寄った。
ぎゅっと握れば、力を入れた分だけ、曲がった。

一瞬だけ、視界が黒になって、誰もいない何もない場所にいるように気がしたけれど、
次の瞬間、視界は青で、

「お前は、苦しくはないのか?」

視界は、リズで一杯だった。
私の顔を覗き込んで、顔をあげたら、キスできそうに距離だ。
なんて、お門違い。ふっと、笑って、私は言う。

「苦しいよ。苦しいけど、それ以上に、生きたいの」

ねぇ、それ以外になんて言えばいいの?
苦しいから、傍にいてっていったら、傍にいてくれるの?
違うでしょう?リズが大切なのは一つだけ、一つ以外は壊れちゃうんだから。
リズも、奇跡を貰ったんでしょう?だから、変わらないで、私も変わらない。
そう、願っているから。





本当は、聞きたいことがいっぱいあった。
だけれど、自分が予想していたよりも彼女といた一季節は、
今も心の中に鮮やかに色づいている。
ススキに団子。泥だらけの顔で精一杯笑う彼女は、
その時はまだ両目だった。
その時はまだボロボロの赤い服を着ていた。
その時はまだ、まだ、子供だったのに、
4年間は長いのか、短いのか、たった一人を思いながら生きてきた自分には、
時間の間隔が狂っていてよくわからないけれど、
神子以外の事情で時空を飛び越えたのは、一回だけだ。

彼女は、野原の中で大の字で寝ころんでいた。
その姿は、前と同じで、安心したが、片目に眼帯を付けた彼女は、
前よりも腕をあげて、体にもっと傷をこさえた彼女は、
知らぬ間に、前以上に鎖を巻きつけられたようだった。

彼女から語られるあの日の感情に、脳みそが揺れた。
大切にしなよ。と言った彼女はこのまま土にのまれて、消えていくそうな心地して、
彼女の視線と自分の視線を近付けた。
ちらりと目に入った赤色は彼女の大切な赤い服で、それは赤いお守りに変わっていた。
無性に捨てたい気持ちにかられたが、ぐっと我慢して、彼女に向きあう。
それから、自分でもよく分からない質問に、
眉が寄っていた顔をやめて、一回驚いた顔をして、次に苦笑した。

今はもう彼女はいない。彼女がいた痕跡だけが草むらに残っていて、
そこに体を倒してみた。
同じ景色を見れば、彼女の気持ちが分かるように気がしたけれど、
もう空は夕暮れで、分かるはずもない。
そして、自分が彼女にどんな答えを望んでいたのか。
もし、彼女が私に苦しい助けてと言えば、いいや、彼女は言わなかった。

彼女は、見透かしていたのだ。
言えば、あの人すら忘れそうになった私を。
時空を超えて会いに行くことができない人。
だったら、今すぐ会いに行く。前のように暮らそうなんて、思ってしまった私を。




その感情が、親愛なのかなんなのか答えはないけれど。










2010・3・19