望美と知盛の舞に魅入っていてけど、終わりに近づき
慌ててを見れば、彼女はいなくなっていた。

は、平家にいるときからあまり舞が好きじゃなかった。
舞が始まると、重要なとき以外は必ず席を立ち、
重要なときは、顔を歪めて、苦しそうに舞を見ていたので、
最初、望美が見ようと行った時に、の顔をみれば案の定嫌そうな顔をしていた。
無理やり来なくてもいいのに、はそれでもついてきた。
嫌だったら、いいぞというアイコンタクトも、大丈夫だから前見とけで、
交わされて、望美の舞のときはまだいたから、
知盛と望美の舞に嫉妬した・・・とか?

「なに、眉間に皺寄せて険しい顔してる?将臣くん」

「・・・・・・いや、俺はそんな顔してない」

「え、してるよ?ほら」

と望美が胸から出した子鏡にはちゃんとなさけない顔した自分が映っていて
なんでこんな顔をしているのか理解できなくて頭をかく。

「ところで将臣くん。さんは?」

きょろきょろとどこかたどたどしく聞いてきたことに望美に気づかないほど、
動揺していた俺は、ぶっきらぼうにさぁ?帰ったんじゃね?と言うことしかできなくて
その様子をみて、ふと笑った知盛の姿がこれまた憎らしい。
なんだよと、言えば

「本物の舞が見れるかもしれないな」

とよく分からないことを言って俺と望美が何か言おうとするのを口元にしっとやって
目を閉じた知盛はこちらだと言って足を進めた。

シャンシャンシャンシャン。音が強くなっていく。


さんは舞っていた。皆が座り込む中一人舞っていた。
それはある日夢でみたような舞ではなく、それ以上の。
彼女を纏う空気もこの場所さえも全て変えてしまっている。
シャンと鈴の音だけで舞われる舞は、柔らかく時に激しく、
技術面では劣っているわけでもないのに、
私の舞っていた舞がどんなに稚拙であったか。技術ではない決定的ななにかが違う。
鈴の音だけなのに、音楽が聞こえる。
何を思っているかの感情が伝わる。
綺麗じゃない、そんな言葉では言い表せないものがそこに存在していた。

シャランと鈴の音が変わったときだった。
また、舞と共に空気がまた変わった。
さっきのがまだ不十分だ。まだ、まだと言わんばかりに登っていく。
緩急がついた踊りに、うわぁと口から声が出て、
頬に温かいものが感じられて、自分が泣いていたことに気づいた。
なんで涙が出るか分からない。だけど、涙が止まらずポロポロ出てくる。

苦しい、殺したい、憎い、愛しい、恋しい、愛しい
・・・・・・・・・・・・悲しい。悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい
でも、愛しい。
笑って、泣いて、怒って、明日を一緒に生きて、幸せ。
でも、悲しい。
どうして、欲しかったのは一人だけなのに、痛い、悲しい。

この舞は、一体誰に捧げられているのだろう。
誰かじゃない私ですら知らない感情に巻き込まれているのに、
横をちらりと見れば、知盛は黙って、でも目がギラギラしていた。
将臣くんは口を開けて、同じように泣いていた。
全てが終わったとき、静寂に包まれた。
さんの舞を見ていた人たちには、涙の跡があって、
さんは綺麗に、とても綺麗に笑ってから、
ようやく呪縛から解けたかのように、彼らは拍手をしてさんを向かいいれた。


「おねぇちゃん。あのね、コレ。前のとき渡せれなかったから」

と、渡された花冠を嬉しそうに受け取って、髪を撫でていれば、
一人の少年が、彼女の裾を引っ張った。

「きて、母ちゃんがいいたいことがあるって」

と連れていかれた先には足のない女の人がいて、
彼女はさんに抱きつくと、泣いて泣いて子供のように泣いて、
抱きついたが縋りつくようになるまで、誰かの名前を叫んでいた。
それが、始まりだったかのように、みんな思い思いに名前を叫んで泣いていた。
彼らは、みんな誰かを思って泣いていた。

ここで、私達3人と中心のさんだけ泣いていなかった。
彼女が、ようやく離されたとき。



と、知盛が呼んだ。そういえば、知盛とさんの関係はなんだろう?
将臣くんのとこにいるから知り合いではあるけれど、と考えていれば。
彼女は一瞬、私達を見て固まって、あーと頭をがしがしやりながら来た。
あまり見れない彼女の様子に

「いや、その。別に放っておいてもいいかななんて思ってない。な」

さんの言葉を途切れた。
知盛が、そのままさんに抱きついたからだ。

「傍にいるって言っただろう?
お前は、俺だけみてればいい。他の誰かなんて考えるなとも言ったな」

「・・・・・・言いましたね」

「じゃぁ、分かっているな」

知盛は、さんを抱き上げると、そのまま邸方向へ歩いていった。

「あ、あれ、どういうこと?ねぇ、将臣くん。
知盛とさんって出来てるの?」

将臣くんを揺らして聞きだそうとしたけれど。

「違う!!あいつらは主従関係なだけだ。早く、行くぞ望美!!」

と怒鳴なれ、そのまま待ってと言っても待ってくれずに彼らの元まで走っていった。
三人の関係がよく分からない。















2010・1・21