『私はみんなと一緒に、絶対、生きて帰る。
そのためなら、世界を変えてしまっても構わない』

私が抱いた夢は途方もなく大きかっただろうか。
私が抱いた夢は私からしてみればとても小さなささやかな願いだったから。
それが悪いことだ。なんて誰も言わないからそして自分の中に比べるものもないから
私は真っ直ぐ自分を信じて歩いてこれた。
夢をみた。
夢は夢ではなく現実に起こった過去であり、未来にはなりえない現実、
火の海の中一人で泣いていた。
手には、次元すら超えれる龍の片鱗を強く握り締めて、目もぎゅっと瞑ってもう一度と願う。
強く、強く。

「なにしてるの」

轟々と燃える火の音が消え、何の音もしない空間で、その声は良く響いた。
自分はこの声を知っている。
誰か分かっている。好意を抱き憧れを抱いていた女の人。
彼女ならば助けてくれるかもしれない、永遠に続く今を。と希望を抱いて振り返れば、
彼女は泣いていた。髪の長い白い服を身のまとった少女を抱きしめて、
赤い涙を流していた。白い肌に綺麗に映えた涙を流しながら彼女は笑って言う。
「一回だけでいい」と。
はっと目を覚まして起きれば、横で朔が眠っていた。
まだ、夜明けは早い。暑いはずなのに、私は汗をかいていた。
木材の臭いがする柱で横たわれば、太陽が昇る姿を見て涙を流していた。
自分が生きた世界と違うここも、変わらず登る日があることに、
なぜだか唐突に理解した。
朔が起きる前に布団に戻ろうとすれば、私は彼女を見た。
夢の内容はうっすらだけど、彼女が出ていることを思い出して、
これも夢の続きではないかと疑った。
それほど、幻想的だった。うっすら朝と夜の境目を太陽の光で作り出して、
その真ん中にさんは舞っていた。その舞は、荒削りだけれども、生きている舞だった。
綺麗なだけでなく醜さも全てこめられていて、私は、私は、

そういえば、さんとリズ先生とも弁慶さんとも将臣くんとも仲が良かったけれど、
それは、いつからだっけ?何回目で分かったんだっけ?
あれ?おかしいな。何回も移動したと言っても片手の指で数えれれるくらいだから、
忘れてなんかいないのに、どうして?
ここは、どこ。ここは。

火の海。みんな私を守って死んだ。
平家が勝った。源氏は負けた。
みんなみんな死んだ。
私のせいだ!!

嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼
嗚呼ああ嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚
呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼。

この声は誰の声?私の声のようだけど、獣の声にそっくりなの。


私は、掌にある逆鱗に祈る。次こそは次こそは。
振り返る姿。みんな同じ行動。私の一言で時空が歪んで行動が変わる。
それなのに、さんの存在は変わらない。歪まないそのままの姿。
あれ。次にいるのは本当に前のさん?
あれれ。あれー?

さんは、何者なの?
他の一般人?違う。違う。私の中の何かが否定している。



目を覚ませば、全てが夢だったようで、白龍が心配そうに私の顔を覗きこんでいる。
朔は、隣にいない。

「神子、疲れてるからって今日はお休み」

ペタと私の額に小さな掌を押し付ける白龍の可愛さに笑みがこぼれたけれど、
遠くで、弁慶さんとさんの声が聞こえて、私は白龍の手を取った。

「神子?」

「ねぇ、白龍。教えて?さんは普通の人だよね?」

私は、心で否定を望み、心のそこで肯定を望んだ。
しかし、白龍は神様なので嘘をつかない。真実だけを述べた。

「?変な神子。は、神子たちと同じ人で、だけど白龍の加護下にはないよ」

「え」

は、神子と同じ時空から来た。それは事故。だけど、この世界で、は、
普通の人と同じ加護下ではなくなった」

よく意味は分からない。
分かったのは、さんが私達と同じ時空から来たこと。
そして、さんはそれを私達に話さなかったこと。




ねぇ、さん私ね、あなたに聞きたいことがあるの。









2009・12・25