このところ、が変だ。最初は俺一人だったが、二人で月見酒をしているときに
事も無げに知盛が呟いた。
「このところ、様子がおかしい」
最初は、真面目に相手の動きだとかこっちの内部の動きだとか思ったのだが、
「あいつが抱きついてこなくなった」
どうやら、の話らしい。
ってかは抱きつきにくるのか羨ましいとじっと見れば。
「兄上と一緒に出かけたときから増えたのに、最近はしなくなった」
「女遊びが激しいとか、忙しいときに邪魔したりしたから鬱憤が溜まったんじゃないか?」
「それはない」
「・・・・・・そうかよ」
なんでそんな自信満々で答えられるんだ。
「今のアイツは俺が拾ってきたころに良く似ている」
知盛は、少し頬が赤く酒に酔っているようだった。
オレは黙って赤い漆の盃の酒を飲み干した。
オレにとってと言えば、可愛い妹みたいな存在だった。
この世界では立場は逆転してしまったけれど。
これからオレはを観察することにした。
実はこの三人の中で、が一番早起きだ。
昔ならば、は起きるまで知盛の傍にいた。
しかし、オレが起きての部屋へ訪れると、出かけるとの紙だけが置かれていた。
知盛が起きる頃、その頃になれば昼であって、あいつはオレでは起きない。
ようやく帰ってきたに起こされるまで起きない。
変化が起きてることに気付いているくせに、いつもならあんなに強引なくせに
知盛は何も言わない。その鋭いが眼光でを見るだけだった。
そんな空気な訳で、当然重いしオレとしてはなんともむず痒い思いなのだ。
オレを巻き込むなと言いたいが、は俺たち二人に対して変わっていて、
知盛が言わないのと同じでオレもに言えないでいた。
は昼ごはんを食べた後もふらりとどこかへ行ってしまうから、
言う機会がないだけと自分を誤魔化した。
帰ってくると少し汚れて帰ってくる。一体なにをしているのかと問えば、
子供と遊んでると言った。嘘だろう。本当は何してるんだと言えないで、そうかと言った。
夕食時、三人での食卓。オレはこの重さを除去するために、話題を振った。
「そういえば、望美に会ったぜ」
ピクリと箸が止まった。
「お前にも会いたがってた」
オレは反応が会った事で安心して、そのまま話を続けていた。
知盛だけが、の顔が変化していくことに気付いていた。
スッと襖を開ければ、俺を見て驚いて顔をしているアイツがいた。
アイツの部屋は、アイツの匂いで充満していた。
土と、木と、此の頃好んでつけている藤の匂いに、隠れた血の匂い。
高く結ってある髪は、兄上曰く、ぽにーてーると言う髪は下ろされていて、
軽く下のほうで結ってある。拾ってきた当初は、女かと思うほど短い背中までの毛は、
今や腰まである黒く美しい長い髪。それと、俺があの日俺のものだとしての証拠として着けた
眼帯をみてそのままの背中に背中をくっ付ける。
は、何も喋らないで部屋に来る前まで読んでいた本を捲った。
昔はこれでいいと思っていた。
よく喋る女よりは多くを語らないコイツのほうが好ましいと思っていた。
しかし、今は違う。
「何を怖がっている」
俺は、近くにあった黒髪の一房を手にとっていじる。
「私が?何に」
「望美とか言ったな」
そういえばは少しだけ反応した、他の人物が見れば何の変化が見れないだろうが、
俺には分かる。こちらを見たに見せ付けるように髪に口づけをする。
他の女ならば赤くなる動作をは少しも変化を見せない。
もう一人の俺の顔の似た奴が薄く笑っている。
アイツのせいで免疫が付いたの片目は強い眼光を放っていて、それがぞくりとさせる。
剣と剣で交じり合い命のやり取りで感じたものに良く似て、違う。
俺はお前を殺せない。
気付かされた思いに、くっと自分でも笑ったことが分かる。目を見開く目の前の女に
俺はかぶりついた。
思えば、なぜ俺がここまで最高の女に手を出さなかったのか、分からない。
だが、次の瞬間理解した。
そうだ、俺は出さないのではなくて、出せなかったのだと。
「冗談だ。そんな顔するな」
泣くのを耐える顔は逆に煽るだけだと教えたかったが、俺には効いた様だ。
上から退くと、少ししてが呟く。
「冗談でキスするところが、バカにそっくり」
「・・・・・・一緒にするな」
凄く不愉快だ。
だが、あいつと俺があの時から同じだと言うなら、俺のほうが愚鈍だと言うことだと
気付いてますます不快になったので、に抱きつく。
「お前は、俺だけみてればいい。他の誰かなんて考えるな」
「俺の傍にいろ」
あの時みたくは俺を抱きしめてくれたが、あのときのように嘘は付かずに沈黙した。
2009・9・19