京の花見が出来ると言われて着いてきたは、
将臣から聞かされた来たことを後悔した。


「俺の、幼馴染がいるんだ」


何も知らないだろうと将臣はに丁寧に教えてくれる。
は、嬉しそうに語る将臣に頷くだけだった。
将臣が夢で会えると行った場所へ一緒に行こうと手を繋がれ、
将臣の歩みは軽い、しかしの足は重かった。
繋がれている手を何度離そうとして、はぐれようとしたけれど、将臣はしっかり握っている。
振り払いたいけれども、は自分をいさめた。
遅かれ早かれ自分は、彼女に会わなくてはいけない。
世界に帰るという選択肢を増やすために、会わなくてはいけないのだ。
そう思うのに、心は彼女を拒否していた。
場所に近づくにつれて、自分の心臓の速さが早くなっていく。

「あれ?いねーな」

将臣に言われて、ふっと肩の力が抜けるのを感じた。
そして、ようやくそこが、下鴨神社だと気付いた。
そこまで自分が一体何に緊張していたのかと可笑しくなった。
笑い始めるに、将臣は怪訝そうな顔をした。

「なんだよ。何笑ってんだ?」

「いや、なんでもない」

「なんでもないってことはないだろう?なんだよ」

むくれている将臣に余計笑いがこみ上げる。
青年になった彼は、頼もしくあるのだが、といるときには少々幼くなる。
知盛の前では兄、の前では弟である彼は、
前の世界では自分よりも年上だということに気付いてまた笑いがこみ上げてきた。
昔は思わなかった可愛いと思うのも、気持ちが少しずつ変化していってるのかもしれない。

「本当になんだよ」

「教えない。だって言ったら、将臣は絶対怒るし」

「はぁ?」

将臣が、に近寄ろうとしたとき、後ろから甲高い声が響いた。


「将臣くん!!」


ひら、ひらりと白い桜の花弁が舞う。
ピンク色した髪の長い可愛らしい少女が、こちらに駆け寄ってくる。
将臣が、少女に何か言っている。
の耳には聞こえなくて、少女の髪が揺れるたびに花弁が散っていく見事に綺麗な光景を
ただじっと見ていた。

、さっきも言ったけど俺の幼馴染の春日 望美と弟の譲だ。
望美、譲。こっちが俺のお世話になってるととこの・・・・・・お世話になってる人で
 だ」

名前を言われ、肩を叩かれてはっとする。
周りには、望美以外の人たちがいて、いつのまにこんなに集まったのか驚いたけれど、
顔には決して出さなかった。

さん?」

おそるおそる自分の顔を見る望美に、は笑顔を顔に貼り付ける。

「初めまして、 です。あなたが、将臣の言っていた人だね。
フフ、綺麗だからびっくりしちゃったよ」

「え、き、綺麗?」

「そうだよ。私の神子はとっても美しい」

小さな少年が、望美を賞賛する。
真剣な顔で言うものだから、望美は顔をさらに赤くさせて少年を咎めていた。
将臣はと探せば、弟と話しているらしく、は居心地の悪さを感じていた。
帰ろうかな。とは思ったが、腹だしの人と、
オレンジ色の髪の量が半端ではない人が目に入った。
特にはオレンジ髪のほうを見る。
白い生地に青の笹竜胆・その家紋は源氏、ここまで自分を隠さない人物も珍しい。
ですら、己の格好を変えてきたのに。
ちなみに、将臣も馬鹿正直な格好で出ようとしたので
平家だと分かるものは人通り隠しといた。
噂に聞いた彼の率直な性格はどうやら嘘ではないらしい。
それにしても。はため息をついた。
彼らの保護かにあるということは、将臣の行く末が複雑なものであるということは免れない。

そして、私の運命も。

白龍と呼ばれた少年が、神子といっている言葉から、
やはり彼女がリズの言っていた人物であることは間違いない。
全てのことが結びついてすっきりしたはずなのに、の腹の中にある重くて気持ち悪い何かを耐えていた。
急にの服が引っ張られた。
下を見れば白龍が、の裾を持っていて、にっこりと微笑まれ、も笑顔を返す。

も綺麗。神子と同じくらい」

子供が嫌いではない、むしろ好きであるは白龍の頭をなで、ありがとうと笑った。
すると不思議なことに重かったはずの何かが軽くなっていた。遠くのほうでの名前が呼ばれた。


「おーい。こっちに来いよ」



太陽が彼を照らし眩しくて目を細めた。細くなった目に映るのは桜の花弁。
は、なぜ自分が彼女に会うことを恐れていたか理解した。
自分が変わってしまうだろうことに直感で感じていたからだ。

変わりたい。変わりたくない。そんな矛盾した心を抱え、は彼らの場所へ一歩足を踏み入れた。










2009・6・5