夢を見た。とても幸福な夢。
ありえないと分かっていても、夢だと気付いていても、
瞬間の目の前の現実に、遠い昔の笑顔を思い出した。
ゆっくりと目を開くと、光が差し込んできた。
は、そこが現実だと分かっていたけれど、夢であるように願った。
目の前には、銀色の世界と蒼い色。
誰かと理解する前に、なんて顔してるんだと思った。
そして、彼らをみて夢を忘れた。
優しく触れてくるのがむず痒くて、沈黙しかない部屋の空気が重い。
喉を潤すために水を飲んでいれば、将臣が頭を床につけていた。
「すまん」
何をしているんだ。と言いたいけれど自分の軽い火傷に優しく触る人物の
軽い殺気を、怒気を感じて止めることが出来ない。
将臣は私に謝っているんだか、知盛に謝っているんだか。
「俺は、お前に酷いこといった。・・・・・・俺のほうが守られてるってんのに、
甘えて自分の立場すら忘れて、ガキだな。ほんと。
謝っても許されるもんじゃねぇことは分かってる。
今回の火傷は俺のせいだ」
放っておけば、空が青いのも俺のせい。だといいそうだ。
普段明るい奴が、落ち込むととことん落ち込む。
は、ため息を吐き出した。その行動に将臣がびくりと動いた。
は、知盛の腕のなかから抜け出し、将臣の前に体育座りをして彼の蒼い髪を見た。
普段背が低い彼女が、彼の頭皮を見れることはないので、根元まで青く、自分と違った
髪に触りたい欲望を感じながら、一向に顔を上げることがない将臣を見ていた。
「・・・・・・昔から馬鹿だったけど、相変わらず馬鹿だね」
つむじに一指し指をぐりぐりと押し付けて、ばっと顔を上げた将臣には笑った。
「下痢になれ」
子供のようなをみて、将臣は泣きそうになった。
昔となにも変わらない笑って自分を許す彼女の姿は眩しくて
綺麗で罵倒されてなじられるよりも
自分の罪深さを感じられて、それ以上にという存在が
ここにいるのか確かめたくて、そして衝動のままを抱きしめた。
思った以上に細い体、彼女の甘い臭いに薬草の臭い、
白い肌に赤い色に、痛そうだという感情と似合っているという矛盾した思い。
温かい体は、トクントクンと生命を刻んで、生きているということを感じれた。
助けだした彼女は人形みたいで、
このまま永遠に目を覚まさないじゃないかと血の抜けるような感覚。
自分のせいだと、責めても喚いても起きることない。なんて無力な自分。
起きるまで傍にいるといえば、知盛は嫌そうな顔をしたけれど、
ごり押しをして、それからのことなんて分からない。
何をしていたのかも覚えていない。が起きるまで世界は確かに停止していた。
すぅーと首辺りの臭いをかげば、薬よりも彼女の匂いがした。
安心する。と思えば、後ろからチャキと音がして首の辺りがピリピリする。
後ろを向けば、知盛が剣を抜いて口だけが笑っていた。
「ククク、いい度胸だ」
そう言われて自分のしていることに気付いた。
慌ててをみれば、顔が真っ赤だった。
知盛に襲われかけてすまんすまんと二人に謝っているけど、
心は違うことを考えていて、自分の顔も赤くなるのを感じた。
だって、これくらいで照れるなんて知盛とのほうがもっとスキンシップ強いのに、
反則だろう・・・と思うほど可愛かった。
はすぐに動こうとするのを周りのものに止められ、富に将臣に。
彼はあれ以来過保護になったと思う。
それとスキンシップが過剰になったようにも思える。
大勢の見舞い客がいなくなった自室、知盛の部屋だったのだが、事情をしった将臣から
元の自室に戻された。曰く年頃の娘として無防備すぎるらしい。
知盛はそういう対象にしていないと言ったが、意外と頑固な彼はを自室に戻させた。
一人部屋の中は自分を守ってくれた赤い服を見た。
ボロボロでもう着れはしないそれを愛おしそうになでると、
こういった原因をつくった人物を殺したくて堪らない。
事実、それを最初目にしたとき、の感情は激しかった。
知盛と将臣が二人でどうにか抑えられたほどだ。
あいつを絶対に許さない、殺してやると、泣きながら叫んで自分の意識がはっきりした頃には
知盛の腕の中という今となっては恥ずかしい記憶だ。
赤い服、いや今はもうお守りとなっての手のヒラに置かれている。
これを彼が作ったのが未だに信じられないが、考えてみれば
彼は何事においても器用だ。
赤い生地に、白い芥子の刺繍。彼の象徴花。
縁側で二人でお茶を飲んでいた。静かな時間にはふさわしくない話題。
謀反をおこした人物についての簡略された説明には眉をひそめた。
清盛は、そんなをみて頭をなでる。
外見上だけ見ればなんてわりのあわない光景だ。
私がするはずだったのに。誰がそんなことを?言う前に誰だかわかってしまった。
あの時知盛に抱きしめられていたとき、横にいた人物の顔を見てしまったから。
彼の罪の意識を、あがなうために行われた行為。
内容をきいて立ち上がるに清盛は苦笑をしていった。
あれは、とてもお前を大事にしている。
彼の部屋に訪れば、次の戦の指示を出しているようで、彼はあれから変わったいや、元に戻った。
よく言えば成長した。キリと引き締まった顔に、
見惚れたが自分の用件を思い出して、は声をかけた。
「将臣」
「お、か?ちょっとまて・・・・・・いいぜ?なんだ」
犬のように懐いたように思える瞳の輝きにはため息を必死に隠した。
「・・・・・・・暇だから、お茶しに」
そういえば、なお嬉しそうにお茶を用意し始める。
分かっていたことだ。私は昔からこの男に甘い。
なんであんなことしたんだ。と責めることはできないだって彼の行為は私のためなのだから。
用意されたお茶菓子に、は将臣の顔を見ながら言う。
「ありがとう」
何が言われているか分からないという表情を期待したが、将臣は笑って答えた。
「いいえ、どういたしまして」
だって、誰にでも生きて欲しいと願うの俺の事だってすぐに許したのに
初めて殺すといった相手に嫉妬したなんて、触らしたくもなかったなんて知らなくてもいい。
2009・5・4