「・・・・・・なんてこった」

明るい空が赤く見える。
言われてすぐ行けば、がいる獄舎は燃え上がっていて、
黒い煙は空へと上がっている。周りには数人の人。
将臣は、ありえない展開に頭がついていかなくて呆然としたが、
後ろの誰かが当たり将臣の腰につけていた獄舎の鍵がじゃらりと揺れた。

そうだ。ぼけっとしている暇はない。
将臣は、火の中へ行こうとすれば、数人の武官が止める。

「何をお考えか。もう中は火の海」

「離せ、なかにがいるんだよ!」

「なりません!これはしょうがないことです。貴方まで死んでしまったら我らはどうしようもない」

将臣は暴れて、武官の手を離そうともがいたが、男の言葉でぴとりと動きをやめた。
こんなときに、ようやくが言っていた意味を理解した。
頭を潰されたら、足は動くことはない。
ただでさえ不安定な平家なのに、中心に位置する自分が背負っているものを全て
忘れていたなんて。

恩返しどころか俺はただの厄介者だ。

でも。
しょうがないことだと、原因は俺のせいで、このまま喧嘩別れしたままで、
謝ることもできないで、タンポポみたいな笑顔を失うなんて、


そんなそんなことは。

死んでも嫌だ。


大人しくなった将臣の腕を武官が離したとき、将臣はそのまま走った。
それと同時に横に風を感じれば。

「知盛」

銀色の短髪を流れのまま揺らして、真っ直ぐと獄舎へと知盛が走っていた。
顔には、いつもの余裕すら見えない獲物を手に敵に立ち向かうような
親を取られまいとする子供のような表情だった。

二人は視線を合わすと、何かを感じ取り獄舎の扉を足で蹴飛ばした。
中には火の手が上がりもはや人が生きているかどうかすら分からない。
熱い熱気と黒い煙に、目を細め口に手ぬぐいを押さえた。

「行くぞ」

小さな知盛の声に反応して将臣は奥へ急ぐ。
奥に行けば行くほど中は酷い有様で、将臣は最悪を考えていたが、
一言も喋らない知盛の背中に、頭を振った。

奴は、生きていると信じているのに、俺が信じないなんて。

負けた気がして嫌で、知盛より前に行こうとすれば。
とても不思議な光景をみた。

赤々と燃え上がる獄舎の中に、長い髪と白い肌小さな顔、嫌に赤い唇。
見事としかいえない美少女が音もたてずに立っていた。
大丈夫かと声をかけるよりも、異常性のほうが際立って、
知盛も将臣も腰の剣に手を当てていた。
美少女は、そんな二人を無表情で興味がない顔をして、小さな綺麗な白い手で、
火の中を指差した。

『あっち』

『あっちに』

『あっちにあの子がいる』

『あっちにあの子がいる 愛しいあの子が』

『あっちにあの子がいる 愛しいあの子が さぁ行って』

声が反響して、繰り返し聞こえる。小さな声なのにどの音よりもうるさい。
耳を押さえても聞こえてくる。
二人が、美少女を見ればにんやりと不気味に笑って。

『 あの子が死んだら ゆめゆめ 簡単に 死ねると 思うな 』


そういうと一瞬に消え、そのことに驚く前に、火の中に道が出来ている。
最終地点では、倒れこんでいるが見えて。
あれがなんだと追求する前に二人は走った。


はいつも着ていた紅い服に包まれていた。
そのおかげか一つの火傷もない、しかし抵抗しようとしたのか手は怪我した跡があった。
妙にやるせない気持ちになりながら、知盛に抱えられている彼女をみる。
全て見えていない彼女の顔は安らかで、自分と同じ年という事実を思い起こせ
そして昔に見た彼女の姿そのものだった。


一ついえることは、君が生きていて良かった。
その感情は後悔の念や、正義感だけではなかった。












2009・4・24