男達が口を開くたびに、思うことは臭いのきつさで、さっさと終わらせてくれないか。
がそう言おうとしたときに、彼らは地雷を踏んだ。


「しかし、さすがは鬼。かようなことでは歯牙にもかけん。
前のように、神子を失わなければいけんようで」

「神子?あれは神子ではないただの売女じゃ。
いいやもしかすると男の精を吸い取る物の怪かもしれん」

「そう、物の怪に命をとられた哀れな武将。我とかの者は友であった。
あやつは物の怪に取り殺されてしまったのだ。あまつさえ物の怪は鬼を呼び、
鬼は人をたぶらかし今ものうのうと生きておる」

がまったく反応を示さないのを見て、彼らの言葉はヒートアップしていく。

「しかし、物の怪は実に美しく艶かしかった。
一度してみたら癖になるあじで」


ガンと大きな音が響いた。
音の源は、目の前にいる何の武器を持たない少女から発されたもの、
男達は、ようやく反応があったことに喜んだが、
次の瞬間、それが間違えであったことをしった。
は顔をあげずにゆったりと男達に近寄っていく、
男達は顔を段々と青ざめ重くなる空気に息を吐くことすらままならなかった。
戦いを知っているものですら怖気ずいてしまう殺気がその場に満ちた。
が格子から男の襟元を掴む。
白く細いそれにただならぬ恐怖を覚え、周りのものは男の小さな助けの声を無視し
蜘蛛の子を散らすように離れた。
掴まれている男は、顔を上げないに恐怖の感情しかなかったが、
かろうじて残っていた自尊心で、震える声を戒めに罵詈雑言を投げかけた。

「ぬ、主らはひ、人ではない。あれもお前も生きているべきではない!!」

ピクリと反応し顔をあげたを見て、男の顔は青から白にかわり
他のものがようやくの腕を放すと、男の手にはくっきりと指の跡が残っていた。
それをみあい、タイミングを決めていたみたいに皆一目散に逃げ始めた。

誰もいなくなった獄舎では一人、感情の赴くまま手当たりしだい
壊し始めた。机に膳、などなどは元の木片に変わり果てていた。
乱れる息に怒りで手は震えて視界は涙によって歪んでいる。
心の中には、ぐるぐると黒くて大きいものに支配されていた。

生きるべきじゃない?そんなのなんでお前が決めるんだ。
生きるべきだったんだ。ルシは。
許せない。許さない。殺す。殺してやる。

は、力いっぱい格子を叩いた。それから、獣のように吼えた。
誰に届くこともなかった獰猛で悲痛な声は、仲間を失ない一人で生きるしかなくなった
オオカミの声によく似ていた。
もう一度格子を叩こうとして、は異変と感じた。
世界が反転しているのだ、なぜだろうと思えば、
自分の体が力なく地面にへばりついていることに気づいた。
驚いて馬鹿みたいに重力の関係を疑ったが、考えれば分かることで
誰かがの膳に薬を仕込んだのだ。
毒の類ならどうにか分かるけれど、どうやらこれは眠り薬のようで
ままならない眠さがを襲った。
なぜ、誰が、なんて鼻のつく臭いですぐに分かった。
あの中の誰かが私を確実に殺すために眠り薬を与え、そして火をはなった。
このままいくと死ぬなと人事のように考えている自分を叱咤する。
指を動かそうと念じるが、残念なことに動く気配はない。
何度も何度も動かそうとしているのにそれどころかの思考は深い闇の中へ堕ちていった。


私、まだ全然楽しめてない。
あいつらにだって制裁加えてないし、敦盛にコスプレで、惟盛とこで甘いもの食べて、
知盛に言ってないことがあるし、それに将臣と喧嘩別れしたままだ。
まだ死にのは早すぎる。まだ、まだ死にたくないよ。


――――――助けて――――――


目蓋が最後かもしれない光を見ては祈った。
起きたらそこが知らない天井であるように、起きたらそこにルシがいるように。
矛盾している願いを一体誰が叶えるのか、
神様を信じないが祈ったものは本人ですら分からなかった。










2009・4・16