惹かれてどうしようもない欲望は後にしてここから立ち去らないと。
そういったのに蝶は先に飛び込んでいってしまった。
ゆらゆらと揺らめく空間を睨んでも、理性が欲望に飲まれてしまう。
そうして、蝶と蛾は一緒に燃やされてしまいました。
めでたしめでたし。


将臣が息を乱しながらたどりついた場所に、清盛はいた。
清盛は将臣を見ると目じりを柔らかくして微笑んだ。

「何かようか?重盛」

違う名前を言われたが訂正するなんてことは無意味だと思うほど将臣はここになれてしまっていた。
自分よりも背の小さい少年にあわすように将臣は、腰をおろした。

のことだ」

腰を下ろした将臣に合わせるように清盛も横に座る。

「あいつは違う。すまない。解放してくれねぇか」

「そうか」

「聞かないのか」

聞かれると思っていたのに何も聞いてこない清盛が不思議がれば、
清盛は、子供のいたずらに笑うおおよそ外見上容姿と似合わぬ笑みを将臣に向けた。

「フ、どうせ誰かにいらぬことを言われたのであろう。
は味方はいるものの、敵も多い人物だ。
どのみち明日には解放だったのだ」

目を大きく見開いて驚いている将臣に、清盛はそのまま話を続けた。

がもし復讐をしようと思うならば、わしが死んだあのときほど絶好の機会はなかった。
だが、奴はなにもせんかった。それどころか戦った。崩れていく平家を救ったといっても過言ではない。
それにの、重盛。
わしも、に助けられた口じゃ。
わしが死んだらあやつはここからいなくなるそう思っておった。
奴を拘束するものはここに無い。知盛に従っているのも一時的にな感じじゃ。
でもな、あれは自分で思っているほど非情ではない」

そこまでいうと、清盛は庭におり将臣の目の前にくると服のなかから鍵を取り出し渡した。

「なにがあったか知らないが、今回自分に非があると思うておるのなら、
お前が解放しに行け」

将臣は清盛が謝りにいく機会をくれたことに気付くと小さくサンキューと言った。
そのとき、バタバタと誰かが足早に駆けてくる。
その足音が段々と近くなり、大変大変との声も大きくなる。
清盛が慌てている男に何事かと声をかけると、男はせきをきったように声を荒げ叫んだ。


「大変です。清盛様。獄舎が燃えておりまする!!」






時間は遡って、獄舎のなかではごろごろと寝転がっていた。
このところあまり寝る時間も一人になれる時間も少なかったので、
快適と言うほどではないが楽ではあった。
さっきまで、色々とごちゃごちゃ考えていたけれど、部下の燕から渡された清盛の密書には、
明日には解放するので今日はそこでのんびりしとけとか、
惟盛の密書には、終わったら甘いものを用意しとくとか、
経正からは、あれにはきつくいっときましたとか、
敦盛からは、そこの居心地とか笛とか心配とか、
・・・・・・まぁ、色々と密書という名の手紙が来るので、
自分愛されていることを感じて柄にもなく泣きそうで
温かい気持ちになったからのんびりとくつろいでいるわけだ。
あまり考え事をするのは、前から好きじゃない。
いつも考える前に進んでいた。無鉄砲というかまわりはもっと動きが激しかったというか
あの世界は、とても平和だから考えなくても生きてこれた。
急に懐かしさがこみ上げてくる。
あの平穏でちょっと退屈な日常を確かに実在して
そこで存在していた自分を忘れたくはない。

そんなことを考えていたのに、急に現実に戻された。
扇で口元で隠して男数人引き連れた平家の上のほうだと分かる男がの獄舎まで来た。
はきだるげに顔を上げただけで、男の顔を見ると興味を失ったかのように
またごろっと横になった
それが、男の気に障ったようで恨み言や馬事を投げてくる。
はその言葉にふわっとあくびだけを返した。













2009・4・12