ここは大宴会場。
飲めや、歌えや、躍れやの無礼講。
いつもなら出ないはずの席には座っていた。
隣はもちろん知盛で、少しだけ嬉しそうな顔にも嬉しくって、
飲めない酒をぐびりと飲んだ。
その後、少量の酒はの体に回り、酔わせ体を火照らせた、今の状態は気持ち悪いだ。
苦い酒の味よりも甘い和菓子のほうが好きだと、手で口で覆い、
縁側に腰掛、風にあたっていると、声をかけられた。
「」
見れば、茜色をした髪を二つのお団子に結い、大きい目には金の色、蝶を思わせる服も金の色の
センス以外はとても可愛らしい少年が立っていた。
「お前には、迷惑をかけたな」
そういって、横に腰掛、脚をブラブラとする姿。
どうみても可愛らしい行動、未だには彼があのおっさん、平 清盛と
イコールで結ぶことが出来なかった。
確かに美形だとは思っていたが、少年期はこんなに可愛いとは、
複雑な表情をしていたのを何を勘違いしたのか、清盛は顔を伏せ、
しょんぼりと肩を落とした。
「気持ち悪いか?」
「いいや、いいんじゃないか」
今のほうが前よりも可愛くていい。という本音と、
ふわふわと後ろで動く羽を触りたい衝動を
押し殺しながらは清盛をじっと凝視した。
「そうか、お主にそういわれると心強い」
その行動や言葉に、勇気付けられたのか清盛はパッとほころんだ花のような笑顔を向けた。
一瞬頭をなで繰りたいと思ったが、こいつはあのおっさんだとは気持ちをもちたえた。
「色々おぬしには迷惑かけたようじゃな。だが、安心しろ、
これからは我らが源氏めを滅ぼしてくれるわ。尻ぬぐいわ、自分でする」
いたずらに笑う清盛の姿の愛くるしさにやられそうになったが、
は清盛が続けた言葉に目を丸くした。
「死んだ敦盛も惟盛も全てのものを復活させる、また明日も宴会ぞ。
楽しみにしとけ」
その夜。は夢をみた。
ありえないほどの大きな月に、霞が立ち込めている。
これは夢だと、気付いたが、ゆらゆらと体は自然に歩き導かれるように丘へ向かった。
霞がいつのまにかなくなり、大きな月は、普通の大きさになっていて、
そこへ一人の男が立っていた。それはもよく知る人物では名前を呼んだ。
「重衡」
そう呼ぶと、重衡はが来ることを知っていたように緩やかに微笑んだ。
「ああ、やはり貴方が来ましたか」
十六夜の君じゃなくて、悪かったな。
「いいえ、私は貴方で良かった」
声を出していないはずなのに、心の声は全て聞かれているようだ。
「十六夜の君は、とても神々しくて美しい人だった。
この月の日に出逢った。優しくて、素敵な女性だった」
ノロケかよ。
「、私が最初、貴方が苦手でした。それに。気付いてらしたでしょう?」
ああ、知ってさ。甘い言葉を吐くくせに、お前の目は、とても冷えていたから。
「・・・・・・やはり、貴方は甘いですね。それなのに、
なぜ私の手を振り払わないのですか?」
さぁ?
「だから、私のみたいなものに、付きまとわれるのですよ」
それは、お前の兄か?
皆まで言うまで、重衡は最初会ったときのように、手に口付けを落とした。
「最初初めて会ったとき私は貴方を知っていた。『鬼姫』
血を濡らし、涙を濡らす一目の鬼、女人なのに剣を手にするなんてとんでもない、
血が好きなんて、なんて醜い、そのあだが一つ目になったことに同情すらしなかった。
それどころか、兄上の物好きさに辟易しました。直に捨てると思っていたのに、
なかなか捨てないから私が忠告して差し上げようとしたのです。
けれど、すぐに自分の考えが間違っていたのだと気付きました。
貴方は、とても強い方だ。そして、人を惹きつけ魅せる。
心が綺麗だから、いくら傷ついても変わりなくあり続ける。
本当に、美しいというのは貴方のような人だ」
月が徐々に大きくなる。まるでこの地を飲み込むかのように。
「ああ、時間です。名残惜しい。
、私は救われました。十六夜の君じゃない、貴方に。
人であることを教えてくれた貴方に」
待って、私は。
「言わないで下さい。この手を引き止めたくなる。
、愛してますよ。こんなに人を愛しいと思うことはなかった。
貴方が教えてくれた。貴方はこの世界で光だった、
だから、生きてください」
いい逃げか。この野郎。卑怯者
「ええ、卑怯なんです。知りませんでした?」
そういって、奴はこれ以上喋れないように唇を唇で塞いだ。
その瞬間光に溢れた世界。
「おい、、」
滲んだ天井に何か慌てている誰かの姿が見えた。重衡の姿。
は、思いっきりそいつを殴って、言った。
「この、バカが、初めてだったのに。答えもいらないくせに愛してるなんて言うなよ」
そういって、もう一度眠りにつくの姿に殴られた場所を手で覆いながら
知盛は、静かにの涙を拭った。
「・・・・・・あいつ、か・・・やってくれたな」
外には大きな月が輝いていた。
2009・3・23