一人、また一人と人が消えていく。とても親しかった人が。
は、廊下を渡っていた。
ひたひたと歩けば冷たくて、吐く息は白く前がよく見えない。
横を見れば雪が降っていた。
自分が生まれた季節を、なんの感慨もなくは一言。
「寒い」
そういって自身が帰る場所へと急いだ。
が、襖を開ければ、その部屋の主人は一人雪見酒をしていた。
襖の開ける音に、振り返りかえりもしない。
「か」
は何も言わず、知盛の背中に背中を合わせた。
背中にじんわりと温もりを感じて、ほっと一息をつく。
このごろの知盛は、少し勢いをなくした。
言うなら、弱った。
死を切望している節すらある。もともと知盛自身生きることに貪欲ではなかったが、
このごろはとみにそうで、死にたいと呟くこともないから、心配で、
何も言わない知盛には暗い天井を見ながら呟いた。
「誰もいなくなったね、知盛、寂しい?」
「別に」
「そう、私は一人を知ってるからかな、人は必ず死ぬって知ってるから、
今も涙を流すけど、心から泣けない。
でもね、知盛、貴方が死ぬのは許せないから、
私より先に死のうとしたら、殴るわ」
「先にお前が死ぬのか?」
「いいえ、私は生きるに決まってるでしょう?
私は殺されない、絶対。だから先に死ぬなんて許さない。
何が何でも生かしてみせる。
でも、私はなにがなんでも生きてやるそれこそ、貴方を捨ててでも」
「矛盾しているな。俺に死ぬなと言っているのに、俺をすてて生きるのか」
「はっ、あたり前よ。死んだら殴るんだから、生きてるでしょう?
私はね、絶対生きのびる。分かったわね。じゃぁ、はい」
背中から抱きしめると、知盛は少しだけ身じろいだ。
「なんだ?」
「寝ていいよ。知盛寝てないでしょう?それじゃ、敵の前に倒れて死ぬよ」
知盛は、やっぱり変な奴だと一言言うと、それじゃ眠れんと、逆にの体を抱きしめた。
母親が子供を求めるように、ぎゅっと前より小さくなった体を抱きしめた。
寝ろという少女が自分よりも寝ていないのを知っている。
小さな戦いやいざこざに、いつも呼ばれて久しぶりに休めたことを知っている。
寝るのが一人になって、女を呼んでも満足できなくなった。
なんの香もつけていないの体には、少し血の匂いがした。
またどこかで怪我をしてきたのだろうか。自分の知らないところで怪我を増やしてくる。
自分以外生きなくても大丈夫だとうそぶく彼女は、きっと誰よりも強くて脆い。
頼りになりすぎるから、時には頼ってもらいたいのに。
自分の強がりをは、すんなりと暴いていく。
寂しいと聞かれて思うのは、
周りの奴が死んでいくことよりも、がどこかへ行ってしまうことが堪らない。
「俺の傍にいろ」
はポンポンと優しく背中をさする。それから。
「いいよ」
そうやって嘘をつく。
目が覚めれば、横は冷たくて少しムッとした。奴は一日も約束が守れないのかと。
少々、躾が必要だと薄く笑えば、大勢の足音と、俺の名前を呼ぶ声。
「知、知盛!!!」
「、どこ行っていた?」
不機嫌な知盛に気付くこともなくは、どこか興奮して驚いた顔をして
知盛をふさぶった。
「よ、よく聞け。焦るんじゃないぞ」
明らかに、尋常じゃない姿に知盛はの頬っぺたにキスをした。
「どうだ?口にもして欲しいか?」
髪に口ずけながら、停止しているに知盛は妖艶に微笑めが
真っ赤な顔をして、凄い勢いで後ずさった。
「落ち着いたので結構です」
「それは残念だ、で、何事だ?」
真っ赤な顔を覚ましているは急に我にかえると、
もうさっきのことを忘れてしまったのか知盛に近づいてきた。
その様子に呆れながらも、からかうよりも真剣な顔に耳をすませば。
「平 清盛が蘇った・・・・・・しかも、子供になって」
正直、頭を疑った。
2009・3・20