草しか見えない、道なき道を登って、とにかく上を目指した。
上ならば、自分がいる場所が分かると思ったから。
木を杖にして、自分の感じたことのないほどの闇に驚いて、懸命に前に進んだ。
靴がブーツでよかった。鋭利な石や泥くらいなら何も感じることはない。
急に、目の前が開けて、さぁーと風が吹いた、
厚着な服は、ちっとも動かないのに唯一、女の子らしさをだしたスカートだけが揺れた。
もう一つ、比較的女の子らしい髪は、
初恋をしたときから伸ばしていたけれど、肩につくかつかないかのいい加減な長さで
あの女の人には敵わない。
そんなことを考えながら呆然と、立ち尽くす。
からんと、木の杖が地面に落ちた。
夕日のオレンジの光がたまらなく強い。
だって遮るものが此処にはないのだから。
目の前には、壮大で何もない場所が広がっていた。
そこでは自然だけが猛威をふるっている。
私はとんでもない場所にきたようだ。
頭が働かないせいか、よく分からないけど涙が出た。
この世界が自分の世界ではないと分かって悲しかったのもあるけれど、
あまりにも美しかった。
パチパチと火が燃える。手はすりきれてヒリヒリしている。
はじめて小学生に習った理科の知識が役立った。
私は火が小さくならないように、そこら辺で取ってきた木の枝を中にくべる。
食料は木の実だ。腹の足しにならないと思っていたが、意外と満腹だ。
場所も洞窟を確保。雨や風くらいならどうにかしのげる。
寒さは、あの日寒かったのが功を制し、家にあるなかで一番温かいものを持ってきたので
寒さで死ぬことはない、しかも火もある。
私は、明日よりも今日!な考えだったので、
2日しかたっていないが、ちょっと自分凄くない?と思いはじめていたときだった。
がさっと物音がした。
そういえば、火をつければ動物が集まると聞いたことがあったので、
杖代わりにしていた木の棒を手に握った。
緊張していたためか、間違えて枝を握ったのでちゃんと確認して
握り直していれば、いつの間に男が入り口に立っていた。
細く痩せた男は、野性的な目と下種な顔をしていた。
言うなら、ハイエナのようだった。私は声を出さずに目に力をいれれば
少しだけびくっと体を動かしたように見える。
男が何かを言う前に、腰を低くし死角に入ると棒で下から上に棒を真っ直ぐあげる。
男のあごにクリンヒット!やったとガッツポーズをして、
後ろでどさっと倒れる音がしたので、そのまま目を覚まさないようにもう一撃いれとく。
言っとくが、私は不良ではない。
そして喧嘩慣れは、していない。
いつも素直で優しい友人に連れ回されていたらこんな技術を手に入れただけだ。
一言だけ言っとくとするならば、
「女をなめるな、クソが」
夜が明けて朝になった、なかなか男が目を覚まさない、縄で縛り放置してただけで、
あの世に送ったつもりはないのだけれど、男の目の前で手を横にふれば、
男が急にビクンと動いた。
「あ、起きた?」
声をかければ、ひぃぃと悲鳴を上げて後ずさろうとする。失礼すぎる。
私は襲われたほうだというのに。
立ち上がり腕を組んで見下ろせば、なんてことはない、
ただボロをまとった男だ。
男は最初震えていたが、私が呆れため息を吐いている姿を見て懇願してきた。
「すまなかった。殺さないでくれ!
おれはただ、寒さをしのごうと思って・・・あ殺さないでくれ!」
何を言っているのか理解できなくて私は男を呆然と見ていた。
男は泣き叫び私に許しをこう。その姿で最悪な環境にいることが頭をかすめる。
「おい」
「ひぃー許してくれぇ。ゆるしてくれぇ」
「黙れ、黙れっていってんの!聞けよ」
ボロボロで何か分からないけれど襟だと思う場所を掴んで大声を出し涙目で男を睨んだ。
溝鼠見たいな匂いがしたけれど、そんな事は関係ない。
うす澱んだ瞳を私が映る。頬がこけている。小娘に負けほどの細い腕の力。
痛いという声が聞こえた。ぎりぎりと絞めていることに気づく、完全なる八つ当たりだ。
腕の力を緩めて泣き出しそうな声を必死に堪えて私は聞く。
「この世界は・・・・・・戦場?」
2009・2・19