貴方と過ごした時間はとても貴重で、時間を忘れるほど楽しかった。
ただ、貴方は私には過ぎた人で、弱いこの身が酷く哀しいのです。
ゆるやかな日々なんて慣れてないから、このぐらいがちょうどいい。
生ぬるい血と涙を両方舐めとった。部下に裏切り者がいたなんて最初から知っていた、
そいつは結構抜けていて、よくミスをしていたから誰かなんて分かっていた。
でも、裏切り者がいることによって気を引き締まられる。そういえば、知盛は笑った。
部屋の中には何人もの死骸、生きているのは私の部下。震える彼に私は口にした。
五度目の失敗だね。そういって笑えば、彼は震えをとめ口にするは、絶対の忠誠を。
目には畏怖と尊敬。私を呼ぶ名前は、『鬼姫』
その日から、私は『鬼姫』になった。
部下のなかに何人もいた裏切り者は、
前の主を裏切ってしまって今では私を略称して『姫』と呼ぶ。
五月になった、桜は散ってしまってもう葉桜だ。
私は、部下を死ぬ気の鬼ごっこやかくれんぼという名の遊びによって鍛えたり、
敦盛で女装という名の遊びをしたり、経正に笑顔で止めろと言われたり、
惟盛と和歌や観光やおやつを食べたり、知盛と死合という名の遊びや日向ぼっこ
色々な平和を味わっていたときだった。
知盛が夕餉を食べているとき一言。
「明日は戦だ」
私は、思わずお茶を噴出した。そして一言。
「えっ、ヤダよ。明日は惟盛と『李庵』の柏もち食べるって約束したし」
知盛はそんなをみてククっと笑った。
「大丈夫だ。それは戦場で食べれる。なんせ惟盛も出陣するからな」
戦場の中、惟盛を見つけた、白い陶器のような顔を青くさせ、
やはりその姿は戦うものの姿ではなく美しい桜のような人で
血の匂いも刀の発する鉄の匂いも彼には似合わない気がした。
久しぶりに彼の姿をみた。彼は先日の戦でおっさんに愚痴を言われて、
京に入れなくなっていたので、のほうから遊びに行っていたのだ。
前遊びに行ったときよりも、少し痩せた。
周りのものが、弱いからいけないと言っていたが、それは違う。
感受性が強く優しく戦いを好まない彼にこんなことをさせているほうがいけないんだ。
唇をぎっとかみ締めたら、血の味がした。
これから、彼はまた、自分を壊す。
私や知盛のようじゃないから。
それはとても羨ましくて眩しかった。
声をかければふんわりと男にしておくのが惜しいくらいの笑みでをみた。
先ほどまでの遠くをみて心あらずな顔ではなく茶目っ気たっぷりの顔でいう。
「終わりましたら、とびきり美味しいものを用意してますから、一緒に食べましょう」
は、その言葉に女にしておくのが惜しいくらいの笑みで言う。
「絶対だ、惟盛。一緒に絶対食うぞ」
そういいながらも、は心のそこで思っていた。
きっと私が戦う姿を見れば、彼は以前のようにいてくれないだろうと。
それでも。
「いくぞ」
金と赤銅色のとてもハイセンスな鎧を着た銀髪の男と
その後ろに控えている自分の部下達の姿をみて、
は惟盛の場所から移動した、そこが自分の居場所であったから。
けど、後ろを振りかえれば良かった。
自分が彼にどう思われようが、一緒にまだいたいんだって言えばよかった。
惟盛の大好きな『李庵』の『桜姫』を一緒に食べようって。
冬にしか食べれないそれを、二つ並べて今度は雪でも見ながら食べようって。
一緒に。
なんて嘘つき。
柏もち、一緒に食べよう。とびきり美味しいのって言ったのに、
絶対って約束したのに、あなたは帰ってこなかった。
嫌いじゃないよ。むしろ、生きていて欲しかった。
桜はもう散った、今では葉桜が咲いてる。
2009・3・15