「『美貌の貴公子』と『光 源氏』?なんだ。それは」


私の元に来た、一輪の桜の枝。
枝に括ってある文と共に、この時代の風流とでもいうのか。
一枝の桜を振り回すと、そのたびに桜の花弁が散る。
うざったい。脆い。
その不安定さが堪らなく、好きだ。
は、目の前に襖の前で口の端を傾け、悪役のように笑う、
襖にできている自らの影すら逃げ出しそうな凶悪な顔で、
そのままスパーンとおもいっきりのいい音を立てて、襖を開けた。
襖を開けた部屋では、何かを書いている美青年がいた。
ゆるいウェーブを描いた腰まで伸びる蜂蜜色した髪に
陽を浴びた兵士にはない肌の色、
萌黄の色した瞳はその名前のとおり芽吹いたばかりの草木の色。
紫の色は、知盛と敦盛と同じ色をして、
平家はその色が好きだなと感心していた。
がひとしきり見終わると見られている人物は穏やかに笑った。

「こんにちは、・・・さんですか?私は平 惟盛です。おあいできて嬉しいです」

その笑顔からは、戦いの匂いも策略の匂いもしなかった。
どうぞ。と座布団をひかれた、は惟盛を一瞥したが、彼の毒気ない雰囲気に
ため息を吐くとどかっと音をたて座った。
は、文を内容を思い出す。
よく意味が分からない和歌はつまり会いたいということ。
仲がいいもとい自分の部下に読み解いてもらった。
握りつぶしてしまったのでもう手元にはないが、は惟盛をみる。
ニコニコと心底嬉しそうに自分をみてまわりに花を咲いている。
実際には桜と梅の枝がささったいた。
目を細めて頬を染めるそれは、女子の憧れのような表情で。
は、自分が思っている意味じゃないかもしれないと考えた。
時々だが、には手紙が来る、それは恨みや嫉妬脅迫それか取り入ろうとするもの。
最初はいい、放っておいても対面すれば怖がり逃げていくものばかりだか、
取り入ろうとするものは面倒だ。媚びへつらい、物を送ってくる。
彼らは私じゃなく知盛にようがあるものや、時には私の戦力としての力を欲しているものもいる。
今回もそれかと思った、しかも直接的に会いたいだなんてなんて度胸があるやつと思い
気合を入れてやってきたのだ。
が、これはどういうことだ。顔を曇らせたに惟盛は急に
横を向き、お茶菓子を出した。


「これは。『李庵』という前いった甘味屋の『桜姫』というもので、
餡の塩梅が丁度よくて、私のお気に入りのものですが、よろしければどうです?」

恐る恐る差し出された桜姫をとろうとして惟盛の手に少し触れたら真っ赤になった。
見解が確証に変わった。
ああ、彼は違う。

は、トゲトゲしい雰囲気をとき警戒を緩め、
惟盛に笑った。

「ありがとう。『光源氏』名前を聞いたときは言いすぎだと思ったけど、
貴方にはそれがよく似合うね」

惟盛はそれを聞くと真っ赤な顔を少しうつむかせて、

「貴方に言われるなら、その名前も恥ずかしくはないです」

どうやら、貴公子は謙虚のようだ。
言ったはずのは桜姫を食べることしか出来なかった。






今、私の元に一人の少女が座っている。表情が激しい少女。
よく大声で何かをいい知盛にじゃれたり、敦盛を追いかけたり、
噂では敦盛と経正と彼女で琵琶と笛と唄で合唱することもあるらしい。
最初は周りのものと一緒で残虐非道の『赤鬼』としか思わなかった。
でも、よく目に入る彼女は槍と赤い衣を振りかざし、
むやみに人の命を取る非道な人物だと想像が出来なく、
泣く姿なんてもってのほか、なんせ彼女はよく笑っているから。
彼女は今まで会ってきた女人とはまったくもって違く、
よくはなし、よく笑い、よく怒り、よく眠り、よく食べた。
そして、彼女には人を寄せ付ける力があった。
一人、二人と徐々に集まってくる。
上に媚びへつらわない姿は凛として、百合の姿を思い浮かべ、
笑う姿は黄色い小菊。
目が離せなくなるのは時間の問題だった。
目が追うようになればそれは、憧れに近い感情。
彼女は私にはないものを持っていた。

気持ちばかりが膨れてとうとう私は行動に出た。
彼女に文を送ろうと、机に向かった。
けれど、
手はありえないほど緊張して振るえて汚い字になってしまったから、
なんていっていいのか分からなくて変な文になってしまったから、
何度も何度も書き直して、日にちばかりが過ぎ去っていってしまって、
そのうちに、彼女は敦盛と仲良くなっていた。
そのとき私がどれほど彼を恨んだかなんて、
垢抜けていない土の匂いがしながら汚らしいと言うことできない
作法だってまったく不躾でなってない、服だってめちゃくちゃで、けれど
なぜか彼女らしくて真似してしまいそうなで、現に下級兵士中では流行っている、
そして美しくて純粋な彼女に知られたくなかった。
ああ、でもようやくその思いから抜け出せそうだ。

目の前にいる彼女は可愛らしく笑う。取っておきの練りきりは思った以上に好評なようだ。
遠くから見たよりもずっと子供らしい彼女、遠くから見たよりも可愛らしかった。
知盛が隠しているのも頷ける。


そんな彼女は言う。

傷だらけの手を差し伸べて、

「私は、よろしく」

それを私の傷一つない手が握った。彼女の手がとても女人のものと思えないほど
硬くてそれが妙に愛しく、柔らかな武人である自分の手が浅ましかった。







あなたは、憧れであり愛しいものであり、まるで太陽のようなかた。










2009・3・13