綺麗な音が聞こえたんだ。
笛とか琴とか音の差がよく分からない私でもその音は綺麗で、
は惹きこまれる様にいつもは行かない場所へと足を運んだ。


寒さはまだ残るものの雪はやんで、そろそろ春になるそんな季節のことだった。
そんななかで私は美少女にあった。
紫色した長い前髪に、同じ色した瞳、よく見れば知盛と同じ色で、
上等な服、それが示すものは彼女が平家だということ。
私は、なるべく平家の上のほうには関わらないようにしている。
天皇が変わって小さい子供が即位しようが、どっかで平家絶☆滅とかいってるとか
色々な政治的要素は全て、興味がない。
私は平 知盛の従者なのだから、思うことと言えば彼のことと自分の身を守ることくらいだろう。
だから仲がいいのは下の、ご飯運ぶ人や一緒に戦う人ぐらいだ。
どうも、ルシのときから私は、上の人間が嫌いみたいだ。

まぁ、それはいいとして。
目の前の美少女は、私をみて驚いた顔をしていた。
ルシとまた違う美少女だ。儚い美人っていうよりも正統派美人。
どちらにせよ可愛く美人だ。
このところ、知盛の顔ばっかりみていて、飽き飽きしていた所で、
奴も綺麗な顔をしているけどそろそろ飽きた。
それで、つい口端をあげてしまいもっと警戒された。
はどこかへいなくなってしまう美少女の背に声をかけた。

「とても綺麗な音だね。ねぇ、これ以上近づかないからもっと聞かせてよ」

にっこりとは微笑んだものの、自分がその笑顔を見れば似非くさくて
近寄りもしないだろう。しかも、選んだ言葉がどうみてもナンパで
自分の言葉のキャパの小ささに泣きそうになった。
が、美少女はなんと足を止めて、おそるおそる唇に笛をつけ音色を奏で始めた。
あんな言葉を受け入れるとは、人がいいのか器がでかいのかそれか世間知らずだ。
とにもかくにも、ちょとした娯楽を手に入れた
廊下に腰を下ろし、目を瞑り、足をリズムに乗せて動かした。

ブラブラと足を動かせばは徐々に
その音が自身がよく知っていることに気付いた。
この曲は、ルシが歌っていた。
綺麗でよく通った声で、
小鳥のさえずりのようで、木々のざわめきのようで、風が通っていくような、
その声はとても良かったのだけれど、
なんと言っても彼女の歌うときの楽しくて仕方がない、あの笑顔が好きだった。
声は彼女に最後に残されたものだから、そう思えば悲しいけれど
彼女ならいうだろう
「目がみえなくとも分かるし不便ない、足はお前がいるからかまわない。
舞はお前が舞うのだから別にいい」強がりではなくそういう。

いなくなってしまった今でも彼女は未だ
の体の中で木の根のように張っている。
すーっと心に一つ空いた穴は、時々無性に存在を主張する。
は胸の辺りを強く掴んだ。


「あの、大丈夫か?」

いつの間にか、美少女はすぐ近くにいた。
これ以上近づかないとわざわざ言ったのに、彼女からこちらにくるとは
と警戒心の薄さに呆れたが、心配してきてくれたことがむず痒くて
私は笑って、大丈夫だ。と言った。
そう言えば安心したように、胸をなでおろしていた。
それから。

「さっきの、歌 」

「・・・・・・あー歌ってた?私。ごめんね、聞くに堪えなかったでしょう?」

「違う!とても力強くて好ましいとその、もう一度聞きたいと思った」

「・・・・・・綺麗だとかうまいとかはお世辞でも言ってくれないのか?」

そういってうなだれると、焦ったようにフォローをしてくるから
笑い声を耐えられずに噴出してしまった。
そんな姿を、最初は驚いていたが遊ばれたことに気付くと、
少し眉毛を下げて顔を赤くするものだから、


「そんな顔は、どこかいい人にするもんだね。お姫さん」

「ッ私は男だ」


それから、拗ねてしまった美少女もとい美少年は、私をじっと見る。なんだと思えば。

「貴方は、知盛様の従者だろう?」

「ん?何有名?」

「ああ、片目を負った『鬼』だと聞いていたから、その想像していた人物と違くて」

「鬼ね」

「気を悪くした、か?すまない」

「いいんや、私鬼に知り合いいるけど、人よりも優しかったから、別にいいよ。
むしろ褒め言葉だね」

その言葉を美少年は驚いたような、聞いたことを悔やんだような、
傷ついたような変な顔をしてみていた。
それから、ぎゅっと笛を握ると美少年は私を真っ直ぐみて言った。

「私は、平 敦盛、貴方の名前は?」

は目をパチクリ動かして彼の言葉を反芻していた、それから、ニカと笑うと。

「はっは、そうだね。自己紹介がまだだった、私は、言われたとおり知盛の従者だよ」


二人は手を握りあった。

後に、は敦盛を笛を強要したり一緒に共演したりもしていた。
ただ、時々女装を強要されたりするたびに、
逃げ惑っている敦盛の姿が見かけられるようになった。











2009・3・11